2016年7月27日水曜日

トリコロール/青の愛


☆☆☆★  クシシュトフ・キェシロフスキ  1993年

bunkamuraでキェシロフスキ監督の回顧上映。
"トリコロール"3部作の存在は知っていたが、監督のことは
何も存じあげなかった。3部作を撮りあげて間もなく、亡くなっ
ているらしい。

交通事故で作曲家の夫と幼い娘をいっぺんに亡くしたジュリ
エット・ビノシュ。極端な眼のクローズアップは『潜水服は蝶
の夢を見る』を思い起こさせる。身体の傷が癒え、喪失した
ものを抱えながらも、静かに暮らし始めた彼女だが、夫の遺
した未完の交響曲(?)の断片にしばしば苦しめられる。そ
れは、ときどき急にストリングスのフレーズが高らかに響き
渡って、画面がブラックになるという、「い、いまの何?」とい
う感じの演出で表現されるのだが、えーと、それほど効果的
とも思えない。
でも映画全体を流れる、喪失感と諦念はとても好きだった。

画像は深夜に電話でたたき起こされて不機嫌なジュリエット
様。深夜といっても23時。

                                     7.16(土) bunkamuraル・シネマ


2016年7月23日土曜日

日本で一番悪い奴ら


☆☆☆★★     白石和彌      2016年

もう1コ★をあげようか迷うのだが…。
あげないことにした。でもこの点数プラス★半分はあると
思っていい。

ストップモーション → スーパーインポーズは『仁義なき戦
い』へのオマージュとしては好ましいが、ただそれ以上の
ものではないという感じ。もうひと工夫あれば。目に入って
くる映画評では、同じく深作・菅原の『県警対組織暴力』に
言及するひとが多い。やはり事前に観ておくべきだったか。
瀧内公美の役は謎めいた色っぽさで、綾野剛がクラッとき
ちゃうのはわかるんだが、役としては意味不明。何のため
に存在したのか。最後に落ちぶれた綾野剛を蔑んだ目で
見るため? 別に要らないんじゃないか。
ピエール瀧がホステスのおっぱいで基礎的なことを説明す
るのは『TOKYO TRIBE』への目配せか? YOUNG DAIS
も出てるし。

綾野剛のキレっぷりは割とサマになってはいるが、もうひと
つ凄みが足りないというか、まだやっぱり可愛い成分が多
いよね。でも結末を考えれば、『アウトレイジ』みたいな本職
さながらの凄みはむしろ要らないのか。

いろいろ書いたが、娯楽映画としてたいへん秀逸でした。

                                                   7.15(金) 新宿バルト9


2016年7月20日水曜日

スケアクロウ


☆☆☆★★   ジェリー・シャッツバーグ   1973年

冒頭、風の吹きすさぶ荒涼としたハイウェイで、お互いを
警戒しながら、拾ってくれる車を待つジーン・ハックマンと
アル・パチーノ。タバコをきっかけに友情がめばえる場面
は秀逸である。

ジーン・ハックマンの重ね着、デトロイトの電話ボックス、
矯正院での、すれ違いと思わず胸が熱くなるような友情…。
アメリカン・ニューシネマですね。このナイーブさは嫌いじゃ
ないです。

                                                      7.15(金) BSプレミアム


2016年7月16日土曜日

【LIVE!】 THE YELLOW MONKEY


THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016

01 プライマル。
02 楽園
03 Love Communication
04 LOVE IS ZOOPHILIA

05 A HENな飴玉
06 Tactics
07 LOVERS ON BACKSTREET
08 薔薇娼婦麗奈
09 球根
10 カナリヤ
11 HOTEL宇宙船
12 花吹雪
13 空の青と本当の気持ち

14 ALRIGHT
15 SPARK
16 見てないようで見てる
17 SUCK OF LIFE
18 バラ色の日々
19 悲しきASIAN BOY

--Encore--
01 Romantist Taste
02 BURN
03 BRILLIANT WORLD
04 WELCOME TO MY DOGHOUSE
05 JAM

          7.10(日) さいたまスーパーアリーナ

実に感慨深い。感慨ひとしお、とはたぶんこのことですよ。

私が上京して最初に行ったライブがYOSHII LOVINSON
の舞浜アンフィシアターだったと思う。うだるような7月の
暑い日だった。舞浜で降りて、ディズニーランドを素通り
してアンフィシアターに行った。まだ"WHITE ROOM"ま
でしか出ていない時期で、ライブでは持ち曲のほとんど
をやったのではないか。イエローモンキーの曲は、やら
なかった。

それから何度も吉井さんのライブに行った。吉井さんは
年末に武道館でやるのを恒例にするようになった。そし
て"LOVE LOVE SHOW"を皮切りに、少しづつイエロー
モンキーの曲を、それこそ「小出しに」やってくれるように
なった。イエモンを露骨に喜んでは吉井さんも良い気分
じゃないだろうとは思うものの、やっぱり"Tactics"のイン
トロが流れたりすると、ものすごい歓声があがった。あれ
はもう生理的な反応のようなもので、しょうがない。

しかし時の流れというのは何とやら。
いつしか私は吉井和哉の新譜が出ても聴かなくなり、
仕事で釧路に赴任したのも手伝って、ライブからも遠ざ
かった……。


7月10日にさいたまスーパーアリーナで鳴らされた音楽
は、私にとっては特別なものだった。それはものすごく
多くの付帯情報をもった音楽であって、時には曲そのも
のよりも、付帯する情報(若干の気恥ずかしさを我慢す
るなら、それを"思い出"と呼んでもいい)のほうに意識
がいってしまうこともしばしばだった。

吉井さんはMCで、「もうイエローモンキーは一生解散し
ません!」と宣言した。ほんとかよ、とは思ったけれど、
今後は定期的にツアーをやるとも言った。今回聴けな
かった曲も、「小出しにして」やっていくと約束してくれた。
それだけで私はじゅうぶんである。至福の3時間だった。


えっとねー、特に良かったのはねー、
"楽園"と"Love Communication"と"Tactics"と"球根"と
"カナリヤ"と"HOTEL宇宙船"と"SPARK"と"SUCK OF
LIFE"と"悲しきASIAN BOY"と"BURN"と"BRILLIANT
WORD"がとっても良かったよー、…ってほとんど全部や。

ベストアクトは"SPARK"。

2016年7月14日木曜日

クリーピー 偽りの隣人


☆☆☆★★      黒沢清     2016年

"ホラー"と銘打てるほどの恐怖描写はなかったが、じわじわと、
ギリギリと締め付けられるような不快さと不気味さが全篇を覆っ
ている。冒頭の取調室の窓もかなり良い感じだが、ただ風が吹
いている庭を撮っているだけの画がとにかく怖い。私が黒沢清
を好きなのは、こういうところである。ざわざわしている森とか、
建物の外打ちとか、誰もいない部屋とか、なぜ怖いのかが説明
できないのに怖い。理性よりもっと本能的なところからくる恐怖
を喚起されるというか。いわゆる「この場所はヤバい」みたいな
ことである。黒沢清はそれをなぜ映像に定着できるのか、私に
は皆目分からないので、とりあえずマジック・タッチだということ
にしておこう。

緊張と不快を強いられる130分は正直いって疲れるが、充実感
もある。香川照之の不気味さを堪能。文句なしにすばらしい演
技だった。西島秀俊は、あれ以外の演技を見たことないけど、
まあ今回は表情のなさが映画とよくマッチしていた。同僚が殺さ
れ、怒りと焦りのあまり川口春奈に乱暴なことをするんだが、そ
れでも何も感情が伝わってこないのがすごい。あまり褒めてな
いが。竹内結子はまあまあかな。お茶々さま。

さっき数えてみたら、黒沢清の映画は20本目の鑑賞だった。
気まぐれで、私の愛する黒沢清の映画5本を選んでみる。

『CURE』
『叫』
『岸辺の旅』
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』
『ドッペルゲンガー』

いずれも、「おもしろいからゼッタイ観て!」という類の映画では
ない。私が勝手に愛しているだけなので、むしろ観なくていいで
す。

                                                        7.1(金) 渋谷シネパレス


2016年7月11日月曜日

エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事


☆☆☆        マーティン・スコセッシ    1994年

19世紀ニューヨークの社交界を舞台にした"禁じられた"恋愛
模様。ただ、「汚れなき情事」という邦題は意味不明で不要。

華やかではあるのだが、所作にせよ言葉づかいにせよ、アメ
リカ式を低く見てヨーロッパ式を重んじるという歪なニューヨー
クの社交界に、なんでも舶来のものをありがたがってしまう日
本人の心性をも垣間見るような気になる。
主演はダニエル・デイ=ルイス。若い。婚約者がウィノナ・ライ
ダー。あんま好きじゃない。そして禁じられた恋の相手はミシェ
ル・ファイファー。可愛い。

画像はミシェル・ファイファー嬢。
♪ ミシェル・ファイファーの唇が好き ドレスからのぞく鎖骨も好き~

というミスチルの歌がありましたね。
よくドレスを着てたので、もしかしたらこの映画のミシェル・ファ
イファーが桜井さんの念頭にあったのかもしれません。ただあ
の歌はたしか夜な夜なガールハントにいそしむJenを歌ったも
のなので、ミシェル・ファイファーを好きなのはJenなのかも。

                                                          7.2(土) BSプレミアム


2016年7月4日月曜日

中間報告


去年の紅白歌合戦からもう半年経ったんですって、奥さん。
ほんとに嘘みたいでしょう。いくらなんでも早い。

まあ、経ってしまったものはしょうがない。諦めて総括しよう。
総括せよー!(©あさま山荘)

鑑賞本数ですが…

現在、62本

うーん。
今年も余裕だ。どうしてなんだろう。
ビッグプロジェクトに組み込まれて、たしかによく働いている
んだけど、わりあいそれ以外の仕事をやってないからかなぁ。
いや、でもそんなことないんだけどなぁ。ぶつぶつ。
でも読書はますます減ったね。これは確実。

上半期、毎度ながら、つまんない映画にも出会いましたが、
すぐれた映画にも出会いました。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』
『海よりもまだ深く』
『ブリッジ・オブ・スパイ』

この辺は素晴らしかったねー。

旧作では、

『ラストエンペラー』
『恋する惑星』
『ROLLING』

が良かった。

テレビドラマは、「ゆとりですがなにか」の中盤の展開に瞠目。
4話~7話あたりの、凡百のドラマが失速しがちなところでの
アクセルの踏み込み方に快哉を叫んだ。もうドラマはクドカン
が最強でいいよ。敵なし。

それでは、今年後半も素敵な映画に出会うべく、彷徨し続け
る所存! みなさまもよきシネマライフを。

2016年7月2日土曜日

FAKE


☆☆☆★★     森達也     2016年

この映画を観たあとは、誰もが佐村河内守という人間
に温かな親しみ(多寡はあれど)を感じるに違いない。
かくいう私もそうだ。
だが、森さんが意図したのは、そういうことではないだ
ろう。ここ数年、森さんが口を極めて警告し続けている、
"集団化"の現象。水に落ちた犬を叩く傾向を強める大
衆・マスコミ。この社会の縮図のようなものを、佐村河内
騒動に見て取ったのではないか。
しかし「とりあえず」まわし始めたカメラに、よもやあのよ
うな生活や会話が写し出されるとは予想していなかった
はずだ。

「観察すること」だけがドキュメンタリーだと思っているひ
とは、この映画に驚かされ、腹を立てるひとだっているか
もしれない。しかしこちとらカンパニー松尾や松江哲明に、
コミットメントこそがドキュメンタリーだと教えられてきた。
いまさらあのラスト15分に驚きはしない。が、最後の最後、
まさかこれがこうなってエンドロール、なんてことはない
よな! と思っていたら、まさにそうなってしまったので、
森さんの意図をはかりかねてしばし唖然とした。まあエン
ドロールのあとのシークエンスがあってよかったと思う。

                                           6.29(水) ユーロスペース


2016年7月1日金曜日

コペンハーゲン


宮沢りえ、浅野和之、段田安則による3人芝居。
1941年、ドイツ占領下のコペンハーゲンに、ボーアを訪ねた
ハイゼンベルク。その一夜、いったい何があったのか。どん
なやりとりが二人のあいだにあったのか。謎ときのようなス
リルも含んだ会話劇である。

ボーア(浅野)とハイゼンベルク(段田)、二人の偉大な物理
学者が、かつて、先生とその下で学ぶ研究者だったとは知
らなかった。ボーアの妻(宮沢)は時に会話に加わり、時に
醒めた視点で状況説明をするナレーターとなる。とても抑制
の効いた会話劇で、すっかり引き込まれてしまった。

不確定性原理、相補性原理、ウラン235、中性子、行列方程
式、波動方程式、拡散方程式…。物理用語が飛び交う。
私は実はいちおう物理学科を卒業したぐらいなので、これら
がとても耳になじみがよく、懐かしくて、心地よかった。

                                                     6.28(火) シアタートラム