2019年5月31日金曜日

読書④


『巨大なラジオ/泳ぐ人』
ジョン・チーヴァー 著  村上春樹 訳  新潮社

まったく知らなかった作家で、これまた、春樹が
訳さなければ手に取ることもなかったであろう本
の1冊である。アメリカの作家で、50年代から70
年代まで、私生活に波乱はありながらもコツコツ
と短篇を『ニューヨーカー』に執筆し続けた。長
篇は春樹いわく「構造的には短篇小説を組み合わ
せたもの」で、本来的に短篇作家なのだろう。
このアンソロジーには春樹が選んだ20篇を収める
が、どれも「無理のない奇妙さ」というか、読み
進めるとある瞬間にふっと足元の床の確かさがな
くなるような、ざわざわする感じの作品が多い。

どれも似たような、裕福な中産階級が住む高級郊
外住宅地が舞台で、基本的にリアリズムの文体で
進んでいくのだが、どれも見事にバラバラの読後
感である。
毎回題材を変えても結局同じような話になってし
まうのが普通の作家だが、毎回同じような設定な
のに全然違う手触りの話になるのがチーヴァー、
という春樹の言葉は頷ける。









「猫を棄てる――父親について語るときに僕の語ること
村上春樹 著  文藝春秋2019年6月号

そして問題作(笑)。
これまで村上春樹が父親のことにチラリとでも言及
した文章というのはほぼ無いと言ってよく、国語の
教師をしていた事と家に本がいっぱいあったという
事以外、ほとんど書いたことがないのではないかと
思う。
それが今回、まとまった文章として父親のことを書
く気になったらしく、戦中・戦後、そしてもちろん
息子(村上春樹のことだ)が生まれて以降のことを
かなり詳しく調査して書いている。さながら「ファ
ミリーヒストリー」である。
まあ春樹のことだから当然、感傷的な文章になるは
ずもなく、また間違っても読者にそういう感興を起
こさせることのないよう注意が払われた淡々とした
文章なのだが、俳句が趣味だったというお父さんの
俳句が引用されたり、豪放磊落だったという祖父の
エピソードなどがちりばめられていて、正直いって
おもしろい。




2019年5月26日日曜日

ROMA


☆☆☆★★★  アルフォンソ・キュアロン  2019年

なんでキュアロンがローマを題材に映画を撮るんだろう、
と観る前は思った。そして観終わって、良い映画だった
んだが、全然イタリアっぽくないロケーションだったの
はいったいなぜ…。

と思ったら、メキシコシティの「ローマ地区」かよ!
そりゃそうだよね。へんだと思ったぜ。敢えて勘違いを
狙ってるんだよね、これは。『パリ、テキサス』みたい
なもんか?

モノクロで音楽もほとんど付けられていないこの映画に
淡い色彩を与えているのはSEだろう。といっても、街の
ベースや鳥の鳴き声が多いのだが、そのなんてことない
SEが不思議と心に残る。それにしても執拗な飛行機の映
り込みは何を意味するのか。特に意味はないのか。でも
CGで足してる飛行機もあるよね。

売れっ子がこういう半自伝的な地味な映画を撮るという
のは(しかもモノクロである)、やはり勇気がいること
だろう。でも撮りたくなっちゃうのかね。

                                          5.5(日) 銀座シネスイッチ


2019年5月21日火曜日

【LIVE!】 EAST MEETS WEST 2019


スーパーベーシストのウィル・リーの呼びかけ
に応じて参集した西洋(WEST)と東洋(EAST)
のミュージシャンが繰り広げる夢のライブ!
…ということで、事情は充分に分かってはいな
かったけれど、行って来た。
スーパーバンドをバックに、藤巻亮太や矢野顕
子やらが出て来て歌う。ジャズピアニストの桑
原あいは超絶技巧でソリッドなピアノを聴かせ
る。
私の嫌いなツインドラムに不安がよぎるも、う
まく棲み分けていて、あまり濁らず、パワーは
増量、という感じで今まで聴いたツインドラム
の中で一番良かった。

イベントのハイライトは伝説のダブル・ダイナ
マイト、サム&デイブのサム・ムーアのステー
ジということになるだろうけど、座りながらの
歌唱でも圧巻のパワーである。
桑原あいと山田玲による"Sir Duke"も白眉。す
ばらしかった。

               4.28(日) 東京国際フォーラム ホールC


2019年5月11日土曜日

きみの鳥はうたえる


☆☆☆★     三宅唱     2018年

佐藤泰志原作の「函館三部作」というのがあって、
山下敦弘の傑作『オーバー・フェンス』で完結した
はずなのだが、なぜか時を置かずして4作目が作ら
れた。まあ別に咎める気はないし、いいんだけど。

ところで私は、長年の名画座通いによって見出した
驚くべき法則であるところの、
「2本立てで一度も寝なかったら、2本とも良い映画」
という画期的な理論を打ち立てたのだが、その理論
に沿っていえば『寝ても覚めても』『きみの鳥はう
たえる』は良い映画だった。まあ要するに、いつも
どこかでウトウトしてしまって、まったく寝ないこ
とはあまり無い。

主演は柄本佑、染谷将太、石橋静河。手練れ二人に
立ち向かうことになった石橋静河だが、けっこうふ
てぶてしいというか、落ち着いている。さすがは原
田美枝子の娘。これまで「夜空は最高密度の青色だ」
「You May Dream」(福岡発ドラマ)、「半分、青
い。」と期せずして石橋を追いかけて見てきている
が、今回がいちばん活き活きしていてよかったと思
う。照明の加減によってはユーコ(清野菜名)にも
見えたのが不思議である。

終盤までなかなかいい感じだったのだが、あのラス
トは怠慢としか思えない。まったくもって賛成でき
ない。あれは「観たひとに結末を委ねる」とかいう
レベルですらないと思う。

                                            4.27(土) 早稲田松竹









<ツイート>
佐藤浩市、なかなかやるね。断固支持。


2019年5月8日水曜日

寝ても覚めても


☆☆☆★★★    濱口竜介    2018年

早稲田松竹で2018年の見逃し映画を2本。

なんだろう、画がおしゃれですね。越しの画とか俯瞰
の「見た目」なんかも、引っかけ方がおしゃれという
か、構図がいちいち決まっていて、唸ってしまった。
編集もうまいんだろう。テンポが良く、気持ちよく観
られる。『ハッピーアワー』もいずれ観なければなら
んか…。

どちらかというと黒沢清のように、自分の画の中に役
者を配置して動かしてセリフを言わせるタイプという
か、あまり役者に自由にやらせるタイプではないよう
に見受けられた。唐田えりかと東出くん、棒読み同士
でよかったんじゃないか。伊藤沙莉と山下リオが脇を
固めて盤石。黒猫チェルシーはまた難しい役をやって
いて、もうすっかり貴重なバイプレイヤーである。

そして絶対に忘れてはいけないのは猫のジンタンの名
演。最優秀助演賞を贈るべきだろう。

                                              4.27(土) 早稲田松竹


2019年5月5日日曜日

ターミナル


☆☆☆★★  スティーヴン・スピルバーグ  2004年

トム・ハンクスって、ほんとに巧いね。
ほんとにほんとに巧いね…。

いまさらこの映画に言うことは特に無いですが、
なかなかおもしろかったです。言葉を覚えるの
早すぎ、あの入国管理局のひと意地悪すぎ、キャ
サリン・ゼタ=ジョーンズの役がよく存在理由
がわからん、などいろいろご批判はあろうけれ
ど、いやいやどうして、楽しい映画じゃありま
せんか。

                                                4.22(月) BSプレミアム