2012年10月28日日曜日

大人は判ってくれない


☆☆☆★★     フランソワ・トリュフォー     1959年

いま『トリュフォーの手紙』(山田宏一)をちょっとずつ読んでいる。
たいへんおもしろい。ゴダールとトリュフォーがこんなにも深い友情
で結ばれていたとはついぞ知らなかった。
ヌーヴェル・ヴァーグとは、半分以上ゴダールとトリュフォーの共闘
の歴史なのだね。ふたりの手紙を読んでいると、フリッパーズ・ギタ
ーのふたりのことが浮かんでくるのは私だけだろうか。

まだ読んでいる途中だが、当然のように、名前の出て来る映画をム
ラムラっと衝動的に観たくなってくる。それで借りてきて観てしまった。
6年ぶりぐらいに観たな。『あこがれ』とどっちにしようかと思ったが、
釧路のTSUTAYAには『あこがれ』は無かった。

                                                                     10.21(日) DVD


2012年10月22日月曜日

人生万歳!


☆☆☆★★       ウディ・アレン     2010年

ウディ先生の良いところは、自分の願望(性的なものも当然なが
ら含む)を隠そうともしないところです。オープン。"妄想力"で俺
に勝てるやつがいたらいつでもかかって来い、という感じです。
恐れ入ります。

落ちぶれたかつての物理学の大学教授のところに、発育の良い
家出少女(エヴァン・レイチェル・ウッド)が転がり込んでくるところ
から話は始まる。無学な田舎少女は、ニューヨークの何たるかを
知らず、芸術の何たるかを知らず、物理学の何たるかは当然の
ごとく知らない。偏屈な教授が、いろいろなことを仕方なく教育し
てやっているうちに、少女は教授のことが好きになったから結婚
してくれと言い出す、という、まあ、ええ、ロマンティック・コメディ
なんですがね…。

いやぁ、このしょーもない話をウディ・アレンが映画にするとおもし
ろいってんだから、やはり粗筋では映画の本当のところは分から
ないということですね。人生万歳!

原題は「Whatever works」劇中では「何でもあり」と訳されていた。

                                                                 10.13(土) BS-TBS


2012年10月20日土曜日

ウディ・アレンの夢と犯罪

☆☆☆      ウディ・アレン     2010年

『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』そして本作
『夢と犯罪』が、ウディ先生がロンドンで撮った3部作と
いうことになる。要するにロンドン3部作は、笑い無しの
クライム・サスペンス3部作でもあるわけで。

本作はヨットと女と殺人の物語。名作『太陽がいっぱい』
を否が応にも思い出させる。なぜかたいしておもしろく
なかったけど。

                                                   10.13(土) BS日テレ


2012年10月19日金曜日

アウトレイジ ビヨンド


☆☆☆★★★        北野武      2012年

参りました。大傑作です。
2012年を代表する映画になることは間違いない。
たけしが挑もうとしているものは、『仁義なき戦い』であり、また
自分の師匠でもある深作欣二そのひとである。

画像は激昂する石原(加瀬亮)。
この映画で加瀬亮は、青筋立てて怒りを抑えているか、怒りを
爆発させているかのどちらかである。
加瀬亮も良かったけど、新井浩文と桐谷健太が実に良かった。

                                        10.12(金) ワーナーマイカルシネマズ釧路



2012年10月17日水曜日

豚と軍艦


☆☆☆★        今村昌平      1961年

山本晋也の解説に教えられたのだが、こういうイマヘイ作品を
"重喜劇"というんだそうである。たしかに全篇シリアスで、喜劇
的な要素はほとんど無い。あまりに悲惨な状況、あまりに悲惨
な運命に、"逆に"笑えてくる、という苦い笑いを誘発するという
ことか。
スチール写真の雰囲気とタイトルから、もっと痛快なのを期待し
たので、ちょっとアテが外れたかな。この辺の長門裕之はます
ます桑田佳祐に"激似"になってくる。こういう軽薄な役が似合う
役者が好きだ。

                                                       10.11(木) BSプレミアム


2012年10月16日火曜日

桐島、部活やめるってよ


☆☆☆★★★      吉田大八     2012年

同じ時間を反復して見せる手法、そして反復してまで聞かされる
高校生たちのしょーもない会話、桐島の"不在"によりなぜか過剰
なまでに動揺する生徒たち。この辺を楽しめるかどうか、もっとい
えばその時点で「既に魅了されているかどうか」で、本作の評価は
全然違ってくるだろうと思う。
キネ旬をめくると否定的な意見も聞かれるようだが、私は断固この
映画を擁護したい。傑作。映画として楽しいじゃないですか。

色々なキャラが出て来るが、やはり野球部のキャプテンが最高
だよね!

                                                              10.2(火) 渋谷TOEI


2012年10月15日月曜日

夢売るふたり


☆☆☆★★           西川美和           2012年

闇の中で閃く白刃のような、鋭利な「細部」は健在。それを
堪能するだけでも入場料の元は取れる。ただ今回、いつも
と違うのは、時に大胆な「省略」をしている点だろう。つまり、
阿部サダヲが結婚をチラつかせて次々と女たちをダマす、
その"過程"が意図的に省かれている。それは時間的な制
約もあるだろうし、映画のリズムとしてその方がいいと判断
したのもあるだろう。
私はなんとなくそのせいで、映画の"絵空事"感がヘンに強
調されたような、薄っぺらくなったような気がして物足りなくも
思ったのだけれど、どうでしょう。

しかしシビれるシーンも多数。やはりいま映画作家の最高峰
にいるひとりだと確信した次第。

                                     10.2(火) ヒューマントラストシネマ渋谷


2012年10月14日日曜日

ヴァンパイア


☆☆☆★★      岩井俊二      2012年

なかなか変わった映画だし、とても思い入れの強い監督でも
あるので、短く感想を言うのは難しい。
まったくもって「万人に薦められる」映画ではないが、色んな
ひとに観てもらいたいような気もする。残虐シーンがあるので、
そういうのが大丈夫なひと限定だけど。

それにしても、岩井俊二の新作だというのに巷は盛り上がって
はいませんな。8年ぶりですよ、8年! 思えば8年前、私が映画
を「数打ちゃ当たる」式にガンガン観始めたのとちょうど軌を一
にして、当時一番好きだった岩井俊二は映画を撮らなくなった
のである。やっぱコンスタントに撮ってくれないと評価にも困る
よね。なにも三池崇史みたいに撮れとは言わないからさ…。

                                                       9.22(土)  シネマライズ


2012年10月13日土曜日

お嬢さん乾杯

☆☆☆★       木下恵介      1949年

「万人受けする木下監督一流の軽妙な喜劇」と聞いて、「ほほう、
どんなもんだろう」と思っていたのだけど、ちょっと期待が過ぎた
かな、という印象。当時の銀座四丁目あたりの風景が出てきて
なかなか興味深い。

                                             9.18(火)  BSプレミアム


2012年10月12日金曜日

夏の読書(少ないです)③

『昭和のエートス』

内田樹 著     文春文庫

毎回書いているような気がするが、ウチダ先生の論旨はとにかく
分かり易い。なのに論理の穴があまり見付からない。すばらしい
ことですね。ただ、今でも「分かり易さ」への警鐘が耳の奥の方で
微かに鳴るのを聞きながら読んでいる。

本書の中では、カミュについて書いた「アルジェリアの影」が白眉
だろう。すばらしい文章で、はっきり言って私は感動してしまった。

以上、夏の読書でした。ほんとに少ないなぁ…。


2012年10月3日水曜日

夏の読書(少ないです)②


『キャンセルされた街の案内』

吉田修一 著     新潮文庫

うーん。
吉田修一、短篇ではもう「インパクト」にはあまり重きを置かなく
なったのか、全体的にライトになってきている印象。巧いけどね。

一発目の「日々の春」がすごく巧かったので、勢い込んで残りも
読んだ。が、あとはあまり目新しいものはなく。そんな中、女の子
のアパートに隣の男子学生(高村くん)が夜中に忍び込んできて
結局ひよる話がおもしろかった。ぐらいかな。










『サラダ好きのライオン 村上ラジオ3

村上春樹 著     マガジンハウス

ずっと前に読み終わってはいたんですが。
まあ、春樹はあいかわらずですね。


2012年10月2日火曜日

夏の読書(少ないです)


『リトル・シスター』

レイモンド・チャンドラー 著  村上春樹 訳    早川書房

フィリップ・マーロウものはやっぱりおもしろいなー。
春樹による翻訳も3冊目。
でも今回、読んでいていちばん楽しかった気がする。訳者あとがき
にもあるが、オーファメイ・クエストという小娘が秀逸で、読みながら
もマーロウとオーファメイが会話する場面が待ち遠しい。
人物どうしの会話、という面で春樹はやっぱそうとうチャンドラーの
影響を受けてますね。それを隠そうともしてないけど。

この本、だいぶ長いこと本棚で寝かせてしまったので、文庫になる
前に読まねばと思い、出張にわざわざ重いハードカバーを持参して
読んでいた。すると札幌で立ち寄った本屋で、ハヤカワ文庫の新刊
コーナーに本作の文庫が出ているのを発見してしまい、遅きに失し
たことを認識した次第。











『にっちもさっちも 人生は五十一から⑤

小林信彦 著    文春文庫

文春の「クロニクル・エッセイ」、本書は小泉内閣のころ。このころ
から小林さんの政治への嘆き、怒りが多くなる。だけど、獅子文六
をもっと読みましょうだとか、小林旭の歌声が最高だとか、大塚寧々
のフェロモンがどうだとかいう話もあいかわらずある。

最近の文春の連載では『ひみつのアッコちゃん』の綾瀬はるかを
「平成無責任娘」と命名する冴えっぷりを見せ、ますます孤高の存
在となりつつある。いつまでもお元気でいてほしい。