2016年8月14日日曜日

夏の読書


『情事の終り』
グレアム・グリーン 著  上岡伸雄 訳  新潮文庫

良い小説だった。
ここまで文章に技巧を凝らした小説とは予想しなかった。
やっぱり先入観はいけない。グレアム・グリーンというと、
どうしても"信仰"とか"神"の問題がぐちゃぐちゃ入って
いる(失礼)のだろうと無意識下において敬遠していたの
か、2年以上も本棚のいつでも手に取れる位置にいたの
に、手に取らなかった。

正直なところ私はサラが愛を捨てるのと引き換えに神を
信じるようになる過程にそれほど興味は持てないし、そ
れが劇的なものとも思えないのだが、とにかく文章のう
まさには興奮した。文章もプロットも、まぎれもなくイギリ
ス式の小説といえるだろう。そして私はどうもイギリス式
の小説が好きである。

途中、サラの日記が長く引用される章があり、これは日記
文学でもある。でもあんな文学的な日記を書くひとはいな
かろうから、そこのリアルさは追求していないようだ。










『からくりからくさ』
梨木香歩 著   新潮文庫

これもよかった。
主人公・蓉子の祖母が亡くなるところから物語は始まる。
蓉子は染織を趣味と生業の間ぐらいの感じでやっている。
祖母のいなくなった家を下宿にして、染織関係の勉強をし
ている学生に貸すことに決め、与希子、紀久、マーガレット、
そして蓉子の、4人での生活が始まることになる。

こちとら若い女の子の共同生活というだけで興味津々な
のだが、基本的にアートな志向をもった娘たちなので、あ
まり余計なことには頓着せず、淡々と自分の勉強や作品
づくりに精を出す。この植物を煮出してこういう色を出す、
という描写が楽しい。
蓉子には、とても大事にしている"りかさん"という人形が
あって、これがたぐり寄せるさまざまな偶然が、のちのち
色んな謎やら秘密やら厄介ごとやら、要するに「小説的
なこと」を生み出していくのである。

これがおもしろいんだけど、同時にけっこうややこしい。
与希子と紀久の親戚とか先祖の名前がいっぱい出て来
るのだけど、誰が誰なのかよく分からなくなって、途中か
ら考えるのをやめてしまった。しかし布に見られる模様や
パターンから、能面や果てはクルド民族にまで広がって
いく展開の壮大さがあって、飽きさせない。途中ちょっと
都合よすぎるんじゃないか、と思わないでもなかったが。

小説は読んだことがなかったが、このひとが文章がうま
いのは知っていた。『百年の孤独』の解説を書いていた
のを読んで、その豊かで的確な書きぶりにいたく感心し
たことがあった。じゃあ小説も読めよ、という話か。
9割がたは蓉子の視点で書き進められているのだけど、
たまにふっと与希子や紀久やマーガレットの主観に入れ
替わる瞬間がある。1つの場面で何回も入れ替わりがあ
ると、それが少し文章にぎこちなさを与えているように感
じることもあった。

2 件のコメント:

  1. こんにちは

    『情事の終わり』良かつたですか。10年以上も放つておいて、2年ほど前に読みましたが、あまり興味を持てませんでした。文章うまいと言はれて、さうだつたかと思ひ出さうとしても、さつぱり浮かびません。グリーンは遠藤周作が気に入つてゐましたから、買つてはみたもののといふ感じです。イギリス小説としてはぐんと通俗的ですが、モームの方が面白い。

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  2. モームも好きです。
    イギリス式の小説が好きと書いたときに念頭にあったのは、
    ジェイン・オースティン、モーム、カズオ・イシグロなどです。
    あとはそれを吸収し持ち帰った漱石も…。

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