2021年6月17日木曜日

読書⑦

 
『1964 東京ブラックホール』
貴志謙介 著   NHK出版

「戦後ゼロ年」の続編。今回のテーマは東京
オリンピックの開催された1964年。
冒頭から、1964年の東京に満ち満ちていた騒
音、ゴミ、悪臭の凄まじさ、東京は赤痢、チ
フス、コレラが流行する"疫病都市"だった。
そして8月下旬、五輪直前に千葉でコレラが発
生し、大規模な消毒やワクチンの緊急接種が
行なわれたというのである。しかも笑えるこ
とに、続いて葛飾区でも感染者が発生し、感
染経路は不明のままであったにもかかわらず、
厚生省は強引に「終結宣言」を出したという。
コレラが流行していると見做されれば、選手
団の派遣をとりやめる国が出ることを恐れた
からと見られる。えーと、1964年の話ですか
らね。

ことほど左様に、当たり前ともいえるけども、
1964年と「いま」とは地続きである。特に政
治は呆れるほど変わっていない。本書を読んで
印象に残るのは、岸信介という人間の気持ちの
悪さ。"反共親米"という一点でA級戦犯からの
逆転を遂げ、CIAの工作と資金援助のおかげで
首相にまでなった。しかしそれは緒方竹虎とい
う(米国にとっての)適任者が死去したため
の、代役だという。ここまで屈辱的な政治人生
を歩んだ親を見て、子は恥に思うのが普通では
ないかと思うが、子も孫も平然と政治家になっ
て、しかも祖父に生き写しのような気色の悪い
政治家になっているのが私には不思議だし、正
視できないほどの醜さを感じる。

本書でいちばん衝撃を受けたのは、当時の出稼
ぎ労働者をはじめとして、普通におこなわれて
いたという「売血」である。「血液銀行」に自
分の血を売って給料の足しにするわけだが、あ
まり頻繁にやると当然、体調に異変が生じる。
この血液銀行を運営していたのは元731部隊の
幹部だったというのである。中国での人体実験
の研究データがソ連に流れることを防ぐために
GHQがひそかに免罪していたのだ…。この組織
はのちに「ミドリ十字」と商号をあらため、非
加熱製剤による薬害エイズ事件を引き起こし
た。私も幼心に国会で答弁している姿が記憶に
ある、厚生省のエイズ研究班長・安部英は、ミ
ドリ十字から1000万円の寄付を受け、理事に
迎えられていた…。

ほかにも、細野晴臣と森進一を比較した章(生
い立ちから音楽まで何もかもが対照的)や、当
時規模が最大だった暴力団、少年犯罪の凶悪化
からベトナム戦争の特需による景気の拡大ま
で、とにかく内容は濃密である。










『東京エレジー』
安西水丸   ちくま文庫

1942年生まれの安西水丸の、少年時代の東京
を描いている。なんでもない学生時代の思い出
のようで、やはりすごく記憶力のいいひとなん
だな、という感じがする。都会的な、醒めた視
線で描き直した少年時代。50年代終わりごろの
東京の風景が、感興をそそる。





0 件のコメント:

コメントを投稿