2016年11月28日月曜日
ダゲレオタイプの女
☆☆☆★★ 黒沢清 2016年
世界最古の写真技術のひとつ、ダゲレオタイプ。
長時間の露光が必要なため、被写体は40分とか
60分とか、そういう単位で「一切動かない」ことを求
められる。特殊な器具で身体を固定された状態で、
ひたすら耐えるのである。
ダゲレオタイプを得意とする写真家のステファン。
才能には恵まれており、注文は絶えない。彼は注文
仕事以外にも、妻を被写体に写真を撮っていた。
妻が死んだいまは、娘をモデルに写真を撮っている。
主人公の若い男は、アシスタントとして現場で働き始
めるが、やがてステファンの「妄執」ともいうべき写真
への異常な情念を垣間見るようになる。
フランスの俳優を使い、フランスのスタッフで撮っても、
どこをどう見たって黒沢清の映画である。というかむ
しろ、近年の日本で撮った作品よりも黒沢清の色が
偏執狂的に出ている。それは、俳優がフレームアウト
したあとに不気味な漸進を始めるカメラや、意味あり
げにフレームに映り込む鏡、幽霊の緩慢な動き、誰
もいなくなった部屋、勝手に開くドア、階段を上り、転
げ落ちてくる俳優をワンカットで撮ること、音響の不吉
さ、自然界ではあり得ない照明の使い方、生者と死者
との境界の曖昧さ(もしくは境界が存在しないこと)。
だれが言ったか「黒沢清の全部盛り」状態で、ファン
にはきっとご満足いただける内容である。私? もち
ろん大満足である。
11.14(月) シネマカリテ
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