2015年8月29日土曜日

盛夏の読書②


盛夏といいつつ、涼しい日が続いてますが。


『コインロッカー・ベイビーズ』
村上龍 著     講談社文庫

今まで読んでいなかったのは迂闊だった。とんでもない傑作。
読みながら残りページを気にして「あぁ終わっちゃう、読み終
わりたくないなー」という本は、年に1冊あるかないかぐらいだ
けど、まさにそれであった。
冒頭は母親が産んだばかりの赤ちゃんをコインロッカーに置
き去りにする場面である。そこからあっという間にハシ、キク、
アネモネの物語に引きずり込まれ、さながら海中を漂うようで
ある。だんだんと、水面に戻って息つぎするよりも、このまま
海中にいるほうが快適なような気がしてくる。危険だ。

ハシの物語は、こないだ読んだジュネを思わせる同性愛の要
素が色濃い。天性の歌声で歌手として芸能界で成功し、やが
て精神に変調をきたして転落していくという、普遍的な「栄光
と破滅」の物語でもある。一方のキクは運動選手であり、ハシ
のように精神が不安定ということもない。アネモネと出会い、
"ダチュラ"の謎を追い求めていたが、ある決定的な事件のさ
なかに殺人を犯し、函館刑務所に服役することになる。
なによりハシとキクはふたりとも、嬰児のときコインロッカーに
置き去りにされた孤児である。一度は死にかけるが、熱さで
息を吹き返し、泣き声をあげた「生き残りの孤児」である。
ふたりが九州の離島で一心同体のように育ち、やがて都会に
出てたくましく生きるさまは『悪童日記』を思わせる。

様々な要素がすさまじい濃度で、たたきつけるように書きつけ
られた小説である。思えば、このどこか一部を切り取って希釈
したようなうすっぺらい映画をこれまでたくさん観せられてきた
ような気がする。各方面に与えた影響は大きいのだろう。

がぜん村上龍に興味がわく。いくつか読んでみよう。










『8割の人は自分の声が嫌い』 心に届く声、伝わる声
山﨑広子 著    角川SSC新書

ふだんこういうタイトルの本は手に取ることもないが、森達也が
推薦していたのもあって読んでみた。

しかし声というのは本当に微妙なバランスの上にはかなく、危う
く成り立っているものなのだ。声に体調が出るというのはみんな
なんとなく分かるだろう。私が思い出すのは、キャンディーズの
スーちゃんの葬式で流れた、死の直前に録音されたスーちゃん
の声で、あの弱々しく力のないスーちゃんの声は、今思い出した
だけでもゾッとしてしまう。朝のワイドショーで流していいものでは
なかった。

いちおう商売柄、人間の声に興味を持っている。
広瀬すずちゃんにも教えてあげたいけど、人間の声を録る、そ
して声をドラマの内容にベストフィットするように加工するという
のも、これなかなか奥深い世界なのである。あ、断わっておくが
私は広瀬すずの発言には全然腹は立ってない。本当に疑問に
思ってたことを素直に言っただけなんだと思う。ただそれがテレ
ビだったので騒ぎになってしまっただけだ。私も十代の頃は(と
いうか今でも、か?)、いま思うと冷や汗が出るような失礼なこと
をいろんな人に言っていた。



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