2015年9月9日水曜日

残暑の読書


「橋を渡る」
吉田修一 著

まだ単行本になっていないが、週刊文春の連載を毎週律儀に読んだ。
いちおう、長篇小説を1冊読んだことになろう。

読み終わった今だから分かるのだが、これは一気に読むべき小説で、
雑誌連載には不向きだ。構成としてはいくつかの短篇小説のような断
片が提示され、それが最後のピースで収斂していく。最後は近未来が
舞台のSF風のピースなのだが、そこに来るまで、各々の断片の関連
性はまったく分からない。

近未来SFというのは吉田修一の新境地かもしれないですね。おそらく
50年後ぐらいの世界で、そこでは「サイン」と呼ばれるクローン人間(?)
たちが、半分ぐらい市民権を与えられて生きている。サインと結婚する
こともできるようだが、その結婚生活の内実は、主人と召使の関係と変
わりない。おおかたのサインたちは、兵士や家政婦や、言い方は悪い
が慰みものとして生きているようだ。
その世界に生きる、元兵士のサインを主人公として最後のピースは展
開し、そこに、それまでのいくつもの断片に登場した人物の、つまり50
年前の人物たちのとった行動が、様々に影響を与えていることが少し
ずつ分かってくる。なかなか巧みな構成になっているのである。

単行本が出て、文庫になったぐらいでもう一度読み返してみよう。

一時、文春が嫌韓・嫌中記事を派手に書いていたとき(今もなくなって
はいないが)に「ひとり不買運動」をしていたのだが、この連載が始まっ
てからは、買わざるを得なくなった。運動は一時休戦となった。
でもまた再開してもいいかもなと思っている。百田尚樹の連載なんかを
ありがたがってる週刊誌はほんとはあまり買いたくない。



『「4分33秒」論』 「音楽」とは何か
佐々木敦 著     ele-king books

5回にわたる「4分33秒」についての講義を採録したもので、ほんとにま
るごと1冊「4分33秒」の話をしているという、狂気の書である。
「何も演奏されない曲」について、これまで書かれた批評も引用しなが
ら語り続けるわけである。批評ってすごいよね。


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