2021年12月14日火曜日

読書⑮

 
『下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
内田樹 著    講談社文庫

経営者を対象にした講演をもとにしている。
そういう意味でいつものブログ本とは違って
1章が長いというか、じっくりと各章のテー
マについての論考を寄り道もしながら存分に
語っている感じはある。そしてなかなかおも
しろかった。
当日のテーマは「学びからの逃走、労働から
の逃走」だったそう。

第1章の「学びからの逃走」で繰り広げられた
論考が興味深い。最近の子どもはなぜ「わか
らないことがあっても気にしない」のか、な
ぜ自分の非を認めないのか、そしてなぜ「こ
れは何の役に立つんですか?」と質問するの
か。
内田の説明では、家庭内で労働をして対価を
得る、という経験をするよりも前に、おこづ
かいを与えられて「消費主体」として自己を
確立してしまうがゆえに、小学校の教室を、
不快という"貨幣"をやりとりする「等価交換
の場」だと思ってしまう、ということになる。
内田はこれらの論考を苅谷剛彦や諏訪哲二と
いったひとたちの受け売りだと言っているが、
そこで出される「たとえ話」がまぎれもなく
内田樹印なのでついつい読まされてしまうの
である。映画や落語や能のアナロジーを持ち
出してきて多少強引でもねじ伏せるように説
明する。そこがおもしろいところなんですけ
どね。











『雑文集』
村上春樹 著    新潮社

最初に読んだときの記憶では、はじめのうちは
楽しく読んでいたのだけれど、後半はなんだか
いまひとつ身が入らなくて、ちょっと「流し読
み」してしまった覚えがあり、いつかもう一度
しっかりと腰を据えて読み直したいと思ってい
た。何が気に入らなかったのか、今となっては
はっきりしないが、たぶん収録された文章が多
すぎて、前に聞いたことのある話が何度も出て
来るのでいまいち集中できなかったのかもしれ
ない。
しかし丁寧に読むと、どれひとつとしてつまら
ないものはないし「東京の地下のブラック・マ
ジック」のような読みごたえのある力作もある。
日本人のジャズ受容と人種問題のやっかいな関
係についての文章もかなり「読ませる」もので、
村上春樹はこういう込み入った事情をささっと
説明させると、ものすごく解り易くてうまい。
『1Q84』の左翼運動の変遷の説明とか。




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