2025年5月6日火曜日

ゆきてかへらぬ

 
☆☆☆★       根岸吉太郎        2025年

長谷川泰子という人物はどういうひとだったの
か、以前から興味はあった。なにせ中原中也を
捨てて小林秀雄のもとに走ったのだから、この
事実ひとつだけをとっても相当なものだ。
根岸吉太郎がとりつかれた田中陽造の脚本が、
この人物を魅力的に描いていたかというと、神
経症の描写も含めて、私には苦手な描き方だっ
たというしかない。
広瀬すずが演じることで、中盤までのもつれた
恋愛関係に関してはプラスだったと思う。ただ、
今の時代では考えられないほど身勝手な男たち
の振る舞いに神経が参っていく段階になると、
「耐え忍ぶ」ような描写がどうも似合わないの
は否めない。神経症になる前に、さっさと男を
捨てそうな感じがするというか・・・。

木戸大聖の芝居は、最初に見たときは「下手か
も・・・」と嫌な予感がしたが、だんだんしっ
くりなじんできたというか、なかなか良かった
と思う。終盤、赤ん坊の乗っていない乳母車を
押す中原の姿は痛々しくて胸が詰まった。
岡田将生はいつも通りの奥ゆきの無い感じだっ
たが、まあエキセントリックで攻撃的な中原に
比べると、小林秀雄のパーソナリティを感じさ
せるエピソードが非常に少ない脚本だったので
仕方ないかもしれない。「らしい」描写は、論
文の懸賞で「一等は俺に決まってる」と言い放
つ場面ぐらいしか無かったように思う。

                          3.3(月)  TOHOシネマズ池袋