2012年8月3日金曜日

氷壁



井上靖 著   新潮文庫

こないだは、10年近く前の記憶だけを頼りに井上先生を
「忘れられていく作家」とか書いてしまったので、確認の
ために本書を読んでみた。

いやぁ、こんなに文章うまかったか。おっと思うのは、指
示語「その」「この」とか「それは」とかの入れ方が独特で、
それが良いリズムを生み出している。

小説としては、とても変わっている。
最初は、魚津という青年が友人とともに冬山登頂を目指
す話なのだが、そこに美那子という人妻がからみ、友人
は穂高岳で早々と死に、その死の原因であるザイルが、
物理的な要因で切れたのかそれとも別の要因で切れた
のか、という検証が相当「しつこく」書かれる。途中、常磐
という饒舌な上司が前面に出てきたり、死んだ友人の妹
が登場して美那子と張り合ったり、そうかと思うと美那子
の夫の心理描写が細かく書かれたり…。実に盛りだくさん
である。これだけ数多くの要素をうまくまとめて書き分ける
のは、至難というほかない。力量ありますわ、井上先生。
ヘンな小説なのだけど、おもしろかった。

NHKのドラマは未見で、キャストも知らない。勝手にイメー
ジでキャスティングすれば

[魚津]  井浦新(ARATA)
[小坂]  平岳大
[美那子] 黒谷友香
[かおる] 榮倉奈々
[常磐]  きたろう

こんなんどうでしょう。



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