2023年9月18日月曜日

読書⑤

 
『月』
辺見庸 著     角川書店

私の好きな石井裕也が監督して映画化されるこ
とを知り、ずっと本棚に眠っていたこの本を急
に手にとって読みだした。なぜか「映画の前に
読んでおかなくては」という心理がはたらくの
である。

語り手は「きーちゃん」という、盲目で、言葉
を発することができず、自分で動くこともでき
ない重度障碍者。性別も不明のきーちゃんがそ
の聴覚や、自分の分身「あかぎあかえ」の視点
などをまじえつつ、介護者の「さとくん」を中
心に自分が身を置く「園」について描写を始め
る。
津久井やまゆり園の殺傷事件に想を得た小説で
ある。安易な感想を撥ねつける、厳しい小説。
読み進むにつれ、著者から言葉の石つぶてを投
げつけられているような気分になる。自分の思
い込みや、欺瞞や、詭弁や、言い逃れがことご
とく抉り出され、眼前にグロテスクに突き付け
られるようである。「人類はみな平等」「なく
なった方がいい命などない」、そういう紋切り
型のスローガンに逃げ込もうものなら、容赦な
く突き上げを食らうことになる。「なぜ?」
「本当に?」「お前は重度障碍者を抹殺する決
意をしたさとくんを翻意させられるのか?」
「なぜ翻意させなければならない?」

どうやって映画化するのか、楽しみである。















『世界で最後の花 絵のついた寓話
ジェームズ・サーバー 著 村上春樹 訳  ポプラ社

「ニューヨーカー」の編集者でもあった著者。
その落書きを同僚が評価して、同誌専属の漫画
家にもなったとのこと。ほぼ全盲だったという
からすごいが、その絵は「まあ味がある」とい
えるギリギリのライン、という気が私にはする。
いや、けなしてるわけじゃないけど…。

「なんのためだったか誰にも思い出せない戦争」
1939年の世界状況と、その年にこの寓話を発表
するということを想像してみる。勇気、知性、
ユーモア、そして哀しみ…。

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