2017年2月23日木曜日
読書③
『挽歌』
原田康子 著 新潮文庫
釧路を舞台にした大ベストセラー小説として、名前は
ずっと聞いていた。昭和三十六年で七十万部というから、
空前絶後の売れ方だったろう。
ひねくれていてちょっと風変わりな少女と、妻子ある建
築家との、当世風にいえば"不倫モノ"である。これだけ
不倫ドラマが現実でも虚構でもまさに「掃いて捨てるほ
ど」あふれている今の世にあっては、しごくありふれた
恋愛物語にも読めてしまう。
4年間釧路に住んでいた身としては、具体的な地名こそ
出て来ないが、この「繁華街」はあの辺のことか、この
「丘の上の住宅地」はおそらくあの辺りだな、とかあち
こち空想がふくらんでおもしろい。
アミ、コキュ、ハズ…。もう使われなくなった言葉たち
にも出会える。
『高い窓』
R.チャンドラー 著 村上春樹 訳 ハヤカワ書房
以前は発売直後に買った『リトル・シスター』を読まず
に放置して、文庫が出てからようやく読み、いやー文庫
に追い抜かされちゃったよーなんて頭を掻きながら言っ
たものだが、事態は悪化している。『高い窓』はとうと
う『プレイバック』の翻訳が出てから読むことになった。
つまり春樹の翻訳のスピードにも負けたわけで…。ひど
い。村上主義者を名乗るに値しない体たらくである。
ブラッシャー・ダブルーンという希少なコインと謎めい
た美女といくつかの死体とをめぐる話で、いつものよう
に個性豊かな登場人物たちとフィリップ・マーロウの、
時に漫才のような会話とキレキレの文章を楽しむ。
ストーリーなど読んでいるそばから忘れていってしまう
ので、既にもうあまり覚えていないが、上質な文章を読
んだという満足感が残る。とても大きな満足感である。
さて、あとは春樹の新作を心を落ち着けて読むだけです
ね…。
2017年2月21日火曜日
ジュリエッタ
☆☆☆★ P.アルモドバル 2016年
誰も教えてくれなかったのですっかり見逃していた
アルモドバルの最新作。…と思っていたが、どうも
どこかで予告編は観ていたようで、断片的になんと
なく見覚えがある。
ある日突然、母親から逃げるように失踪した娘と、
その娘を忘れようと努めて生きてきたジュリエッタ。
恋人とポルトガルに移住しようとした矢先に、マド
リードで娘の友人と偶然再会したことで、忘れよう
としていた娘をもう一度探そうと決心する。
さしものアルモドバル御大も、お年を召し、そのず
ば抜けていた変態性にも翳りがみえるか。わりあい
オーソドックスな映画になっていた。ラストもえら
く潔いというか、車のCMみたいな終わり方でビック
リした。
そんななか、お手伝いのマリアンがアルモドバル的な
登場人物として異彩を放っている。表情が恐くて夢に
出そうである。
2.11(土) 早稲田松竹
2017年2月19日日曜日
トーク・トゥ・ハー
☆☆☆★★ P.アルモドバル 2003年
早稲田松竹でアルモドバル2本立て。
事故で昏睡状態に陥った女を献身的に看護するベニグノ。
女闘牛士の恋人が同じく昏睡から醒めない雑誌記者のマルコ。
ふたりの友情ともつかない奇妙な関係を軸に、アルモドバル
特有のいくぶん滑稽に脱臼したような物語が展開される。
一日の出来事を語りかけながら、血行が滞らないよう丁寧に
マッサージを施し、体を拭くベニグノが泣かせるが、彼は元
気だった時の少女が通っていたバレエ教室をいつも見ていて、
お近づきになる機会をうかがっていたから話は厄介である。
アカデミー脚本賞受賞。
道路の向こうから微笑んで手を振るレオノール・ワトリング
の可憐さ。この破壊力たるや。
2.11(土) 早稲田松竹
2017年2月13日月曜日
アンチポルノ
☆☆☆ 園子温 2017年
ロマンポルノ・リブート第4弾。いよいよ登場、園子
温である。
このひとが作りたいのはこういう映画なんだね。
たとえ「ポルノ」という枠を与えられようと、あまり
変わらない。そこでは現実と虚構が入り混じり、詩の
ような言葉ががなりたてられ、しばしば悪趣味なほど
の露悪的な過激さが追求される。
たしかに行定さんのようなロマンポルノを園子温が撮
る必要はないが。
2.10(金) 新宿武蔵野館
2017年2月11日土曜日
最強のふたり
☆☆☆★★ エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ 2012年
気付くとテキストのフォントが変わっており、なんだか色も
薄くて読みづらい。ブラウザのせいなのか、ブロガーのせい
なのか分からないが、元に戻そうと思っても戻せないのであ
る。しょうがないからこんなフォントにしてみました。まっ
たく満足していませんが。
『最強のふたり』は再見。
前のブログ記事によると、わざわざ札幌で観ているようだ。
なんとなくつけていたBSで、全部観るつもりはなかったが、
ついつい引き込まれて最後まで。黒人の介護士のほうに、
富豪との優雅な生活とはあまりに隔絶された家族との苛酷
な生活があるというのがひとつのアクセントである。
冒頭の"September爆走"シーンが、終盤でもう一度繰り返
されたときには、単なるお遊びではなく「淋しみ」が感じ
られるシーンとして再現される。なかなか巧い。
2.6(月) BSプレミアム
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