2022年4月3日日曜日

読書③

 
『日本の黒い霧 (上)
松本清張 著  文春文庫

敗戦後のアメリカ占領期に起きた「不可
解な事件」というのは幾つもあって、私
も日本史の授業で習ったおぼろげな記憶
がある。下山事件、松川事件とかの名前
と、なんか列車が転覆してる白黒写真の
ことはおぼろげに記憶していても、どう
いう事件だったのかは知らないままに…。

「日本の黒い霧」は、1960年の「文藝春
秋」1月号から12月号にかけて連載された。
毎月ひとつの事件を採りあげ、徹底的な
情報収集と社会派推理作家の面目躍如た
る「推理力」でもって、戦後の奇怪な事件
の背後に暗躍するGHQとアメリカ本国の
権力闘争を読み取っている。その過程は
スリリングで読みごたえがある。渾身の
連載といっていいだろう。

上巻で扱われるのは下記の6つの項目。
・下山事件
・「もく星」号遭難事件
・昭和電工疑獄、造船疑獄
・白鳥事件
・ラストヴォロフ事件
・伊藤律による共産党内部のスパイ事件

いずれも犯人が逮捕されたり、裁判の判決
が出たりして、表面上は「解決」されてい
る。しかし、事件の経過と警察の調書、裁
判記録、関係者の証言などを丹念に追って
いくと、簡単に割り切れるような事件は一
つもなく、背後に様々な人物の思惑や作為
が渦巻いていることが分かってくる。
いずれの事件もすでに60年以上も前のこと
であり、私のように後から来た読者には、
名前だけではピンとこない事件がほとんど
であるが、松本は事件の概要を要領よくま
とめてくれており、それを読むだけでもお
もしろい。当時を知らなくても松本の筆鋒
が鋭く、合理的な思考を武器に、真実がい
かに歪められたかをえぐり出していること
を感じられる。












『春のこわいもの』
川上未映子 著  新潮社

新作短篇集は6篇を収める。
短い「青かける青」で始まり、これはわり
とあっさりとしているのだが、次の「あな
たの鼻がもう少し高ければ」という整形に
まつわる短篇が秀逸。渋谷のセルリアン・
タワーに「ギャラ飲み」の面接を受けに行
くという設定からしてもう、今まで読んだ
ことのないものを読ませてくれる予感に満
ちていて最高である。
「ブルー・インク」という美術部の男の子
が主人公のちょっと不思議な短篇もなかな
か良い。
最後の「娘について」がほぼ中篇といって
いい長さで、短篇集の中核を成している。
キャラクターの造形も深いし、随所に「未
映子節」が静かに炸裂しているというか、
こういう人物を書かせたら右に出る者はお
らんよね、という感じ。傑作。
春はたのしいばかりというものでもない。
井上陽水の詩を思い出す。

 満開 花は満開
 君はうれしさあまって気がふれる





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