2011年12月15日木曜日
レイクサイド マーダーケース
☆☆☆★★ 青山真治 2004年
点が甘いかもしれないが、こういう映画けっこう好きなので。
お受験の面接で、父親が息子をなぜその中学に入れたいのか、
「志望理由」を面接官に説明している。あとでこれは面接の「練
習」だということがわかるのだが、貴学の校風はまことにどうのこ
うの、という空疎な内容で、男の子はうわの空である。部屋の中を
モンシロチョウが飛んでいるのでさっきからそれが気になっている。
3~4のカットに蝶がひらひら映りこむ。やがて蝶は順番を待つ女
の子の足元に飛んでゆく。それを見た女の子は、狙いをすまし、
躊躇なくシューズで蝶を踏み潰す。一瞬のできごと。顔を見合わせ
て微笑むふたり。シューズを椅子の裏から撮ったカット。蝶の体液
がおおげさなくらいネバついて、シューズと床との間に糸を引いて
いる…。
もうね、実に良いシークエンスで、こういうのを見るとやはり幸せな
気分になる。後の展開はおまえに任せた! 好きにやれ!という感
じ。
12.3(土) DVD
2011年12月12日月曜日
最近かたづいた本④
『初恋温泉』
吉田修一 著 集英社文庫
「温泉しばり」の連作短篇集。
要は、主人公が必ず温泉宿に向かうことが条件の小説集。
三題噺のような感じで、「黒川温泉」「高校生カップル」「女
の子の方の兄夫婦が離婚危機」の三題でサラっと一篇。
「青荷温泉」「おしゃべり者同士のカップル」「隣室に聾唖
の男女」でまたサラっと一篇。実際吉田氏がサラサラっと
書いたかは知らないが、読後感はあくまで軽く、後味は苦
いものと温かいものが半々。
吉田修一はどこへ向かおうとしているのだろう。安定感は
あるが、それだけという気もする。文体が好きだから読む
けども、もちょっと驚かせてくれると嬉しいが。

『私家版・ユダヤ文化論』
内田樹 著 文春新書
思うに私はユダヤ人とその文化について、あまりに知らな
過ぎた。アインシュタインやウディ・アレンがユダヤ人であ
ることぐらいは意識としてあったが、これほど多くの映画監
督・俳優、アメリカンポップスのミュージシャン、そして自然
科学の分野で、ユダヤ人の存在が際立っているとはつい
ぞ知らなかった。
神戸女学院での講義をもとにした本書は、そのへんから
説明してくれるので嬉しい。なぜ「私家版」なのかは本書
中に詳しいが、要は自分が関心がある事柄について、自
分に問いかけながらつづってきた秘蔵ノートのようなもの
ということだ。なので「日猶同祖論」だとか「モレス侯爵」だ
とか、ヘンなものがいっぱい登場してきて、それがまたお
もしろい。もちろんレヴィナス、サルトル、フロイトも登場す
るのでご心配なく。
これまで読んだウチダ先生の本の中でいちばんおもしろ
かった。
2011年12月10日土曜日
ワイルド・アット・ハート
☆☆☆★ デヴィッド・リンチ 1990年
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のときに、今まで男女の逃避行
モノがおもしろかったためしが無いと書いたと思うが、この『ワイ
ルド・アット・ハート』も、リンチ流の逃避行モノなのである。道中
で人殺しこそしないが、まあボニーとクライドのような感じで、お互
いへの愛だけでどこまでもハイウェイを突っ走る。その走りっぷり
は良しとしよう。ハイウェイを爆走している間は、少なくとも映画は
活き活きと動いていた。ただ、ワクワクするのも最初から中盤にか
けてで、結局はやっぱりノレなかった。男女の逃避行モノは、あい
かわらず鬼門である。
もともと、たけしが『仁義なき映画論』でやたらめったらホメるので、
気になって借りてきたのだった。たけしはこの映画のリンチを「劇
画のセンス」と言い、タバコに火をつける執拗なカットの連続を「マ
ンガのコマ割りの感覚」と喝破する。ただ、本作に関してはそうかも
しれないが、本作はリンチの作品群の中ではかなり異質だと思う。
11.24(木) Blu-ray Disc
裏窓
☆☆☆★★ アルフレッド・ヒッチコック 1954年
好きなヒッチコック作品ということで評論家なんかに投票させると、
だいたい『めまい』『北北西に進路を取れ』『裏窓』に落ち着くよう
だが、正直いって前二作はおもしろくなかったんすよねぇ…。
ひるがえって本作は、完成度はあくまで高く、映画的手法の見本
市、技のデパートの様相だし、グレース・ケリーは相変わらずキレ
イだし、サスペンスはわりと盛り上がる。ひとことでいって、非常に
いい出来である。これが名作っていうのは分かるわ…。
11.23(水) BSプレミアム
2011年12月6日火曜日
最近かたづいた本③
『仁義なき映画論』
ビートたけし 著 文春文庫
1990年の雑誌連載をまとめた文庫。おもにその年公開の映画を
たけしが観に行って、批評する。大半はボロクソにけなす。ちな
みに90年は『ダイ・ハード2』、桑田佳祐の『稲村ジェーン』、コッ
ポラの『ゴッドファーザー PART.Ⅲ』などが公開された年である。
文章はしゃべり口調なのだが、これが実際にしゃべりを録音して
まとめたものか、机に向かって原稿用紙をこりこり埋めたものな
のか、私としては気になる所である。これ、仮にしゃべりだとした
ら、この瞬発力は異常である。すごすぎる。まあロクにシナリオも
用意せずに即興で映画を撮っちゃって(『あの夏、いちばん静か
な海。』など)しかもそれが大傑作なんだから、今更おどろくよう
なことも無いんだけど、しかしなー。異次元。
読み始めたら、おもしろいのでどんどん次が読みたくなっちゃっ
て、あっという間だった。これ1冊で終わりにするのはもったいな
い。いまからでも続編を希望。
2011年12月4日日曜日
アントキノイノチ
☆☆☆★ 瀬々敬久 2011年
印象としては、丁寧なつくりで、好感がもてた。
柄本明が突然泣き出すのに違和感を感じたのと、学校で刃物
持ち出して喧嘩してるやつがいるのに、先生たちが駆けつける
のが二度とも遅すぎて、ちょっとご都合主義に見えたのが惜し
かった。でもこれといって不満はないし、何はさておき映画最大
の魅力は、主演のふたりである。そこが勝負の分かれ目であっ
て、映画の成否がかかっている。岡田将生と榮倉奈々。
「東京公園」が良かったので榮倉奈々には期待していたが、期
待にはかなり応えてくれた気がする。良かった。
過去に精神的な傷を抱えざるを得なかった若い男女が、不器用
にもすこしずつ心を通わせあっていくという、非常にありきたりな
話のパターンだが、監督はその定型を使いつつも、観客がゲン
ナリしないよう、丁寧に裏切りを仕掛けている。あまり観客の予
想通りには事が運ばないようになっている。と、わたしは思った
のだが、はたして、観るひとによってそれぞれだとは思うけれど。
さだまさしの原作は読んでいない。どのぐらい原作に忠実なのか
も気になるところ。忠実であればいいってものでもないし、往々に
して、枠組みだけ残して換骨奪胎したほうが映画的にはよくなる
ものである。
<追記>
わりと良いことばかり書いたが、本作の終盤の展開には絶対に
納得できない部分がある。それにはほんとうに失望させられた。
ああいうことをやってはいけない。百歩ゆずってやるにしても、
あんなに軽々しく、ワンシーンだけでやってはいけないと思う。
11.21(月) ワーナーマイカルシネマズ釧路
2011年12月3日土曜日
戦争のはじめかた
☆☆★ グレゴール・ジョーダン 2001年
紹興酒が注入されて朦朧とした頭でぼんやりと観る。
シュツットガルトに駐留している米軍兵士の弛緩っぷりと
腐敗を皮肉ったコメディ。特におもしろくはない。1本に
カウントしたかったので、我慢して最後まで観た。
11.20(日) BS 11
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