2014年5月31日土曜日

芥川賞、久しぶりに②


「きことわ」
朝吹真理子 著

こういうのが「書けちゃう」女の子ってやっぱ一定数いるんすよね。
その一定数の中でも飛びぬけてクオリティの高いひとは、芥川賞
でさえもサラリと獲ってしまうという。げに才能とは。なむなむ。

親戚にフランス文学者がごろごろいるというのはいったいどういう
気分なのだろうか。いちばん有名なのは(というか唯一わたしが
知っているのは)サガンの翻訳者の朝吹登水子だろう。大叔母に
あたるらしい。

時間と記憶の描き方なんかはもう巧いとしか言いようがないが、ム
カデに対する対応の違いとかで「きこちゃん」「とわちゃん」のキャラ
クターも巧く描き出していて、要は巧いのであった。


「終の住処」
磯﨑憲一郎 著

えーと、何なのでしょう、この小説は。
どこら辺が評価されて受賞に至ったのか選評を読んでいないので
知らないが、私にはたいへんレベルの低い小説にしか思えなかっ
た。私が文学賞の下読みのバイトだったら、まず上には上げない
が…。不思議だ。

と不思議に思っていたら巻末解説がなんと蓮実重彦。ハスミン…。
読んでみたが、なんだか変な理屈をこねくりまわした内容空疎な解
説だった。ほんとにこの小説を良いと思ってんのかね。


2014年5月29日木曜日

真夜中のカーボーイ


☆☆☆★★      ジョン・シュレシンジャー     1969年

映画に関する文章でタイトルを目にすることの非常に多い作品で、
いつか観なくては、とは思っていた。できればスクリーンでと考えて
いたけど、なかなか機会がないので、もうこの際。

アメリカン・ニューシネマの代表作、ということでいいんだよね。
勘違いカウボーイと小男のケチなチンピラの奇妙な友情。なんとい
うか、観終わったあともじわじわと「効いてくる」映画である。おもし
ろかった。ドラッグパーティー(?)のサイケな描写に時代を感じる。

                                                               5.9(金) BSプレミアム



2014年5月27日火曜日

ドライヴ


☆☆☆★★     ニコラス・ウィンディング・レフン   2012年


公開時、各所で評判が良かったのも頷ける秀作。
B級アクションということになるが、特に前半は満点に近い出来で、まさ
に「かゆいところに手が届く」というか、「わかってんなぁ」という作り。
惜しむらくは終盤ダレたか。もうひとひねりあって驚かせてくれたら惜し
みなく★追加していたが、ペースダウンは否めず。

主演はライアン・ゴズリング。別にカッコよくはないよね。でもこの映画
ではその無骨さとちょっと(だいぶ?)アブない感じがかえって映画の
土台を支える力となっていた。
夫が刑務所にいる子持ちの人妻をキャリー・マリガンが演じる。何度も
書いてて申し訳ないけれど、超絶かわいい。

                                                                             5.8(木) DVD


2014年5月25日日曜日

アニー・ホール


☆☆☆★★★       ウディ・アレン         1977年

早稲田松竹で『マンハッタン』との2本立てを観たのが懐かしい。
画像は、公園を行き交うひとたちの人生を勝手に想像して彼女
を笑わせている場面だが、秀逸な場面の連続に、笑いながらも
感心しきり。「ヘンな娘」を演じるダイアン・キートンも絶妙である。

これが1977年か。最新作の『ブルージャスミン』もおもしろかった。
こんなに長い間、コンスタントに一級の作品を作り続けたひとって
他にいるんだっけ。村上春樹の新作短篇にも、デートでウディ・ア
レンの映画を観に行く場面がありましたね。

「幸いにも映画の出来は良くて、映画館を出るとき二人とも楽しい
気持ちになっていた」

そうそう、気を付けないとウディさんけっこう出来にムラがあるか
らね! さすがは春樹である。

                                                                    5.7(水) DVD


2014年5月24日土曜日

男はつらいよ 私の寅さん


☆☆☆★        山田洋次        1973年

シリーズ第12作。
マドンナは岸恵子。

                                                      5.6(火) BS JAPAN


2014年5月21日水曜日

芥川賞、久しぶりに


「穴」
小山田浩子 著

久しぶりに芥川賞受賞作を読んでみた。
今回はいとうせいこうの「鼻に挟み打ち」や岩城けいの「さようなら、
オレンジ」など、候補に話題作の多い珍しい回だったようだ。
そんな中での受賞作「穴」であるが、まあ力量はあるんだろう。文
章は読み易い割にヘンに軽くなくて、読み応えもある。ただいかん
せん、全体に、地味だよね。

引っ越しを機に仕事を辞め、いわゆる「専業主婦」となった主人公
が、蝉がわんわん鳴いている夏の田舎で暇を持て余すところから
小説は始まる。なんとなく料理や散歩に精を出したりしているうちに、
河原で奇妙な黒い獣を見かけたり、奇妙な隣人が現れたり、穴に
落っこちたり、もっと奇妙な「夫の兄」が現れたり、おじいちゃんが
徘徊したりと、まあいろいろ「文学的」なことが起こるわけである。
しかし、どうも「既視感」がつきまとうのはなぜなのか。どれもこれも
「ありがち」な感じがして仕方がない。ただ、決して悪くはない。実は
このあとも近年の芥川賞受賞作をいくつも読んだのだが、「穴」は
けっこうレベルが高かったことをいま実感している。既視感は、ある
いは私が「芥川賞的なるもの」を読み過ぎた弊害なのかもしれない。



「苦役列車」
西村賢太 著

山下敦弘の映画を小説よりも先に観てしまったわけだが、前田敦子
が演じた古本屋の娘こそ映画版の創作であるものの、あとは意外に
忠実に映画化していたことにまず驚く。森山未來の憎悪に満ちた表
情とともに映画史に刻まれた「このコネクレージーどもめが!」という
あの名セリフが、よもや小説そのままだったとは思わず。意外であっ
た。西村賢太、やるじゃん。

映画を先に観た副作用として、小説の登場人物たちは森山未來や
高良健吾の顔でしかイメージできなかったわけだが、私はけっこう楽
しく読み進めた。自嘲的な文章というのは、場合によって読者には
心地よいものである。私小説私小説と自他ともに囃すけれど、著者
と主人公の距離感はそれほどべったりという感じはしなかった。節度
ある距離、といっても良いように思われた。

2014年5月18日日曜日

嫌われ松子の一生


☆☆☆★★        中島哲也        2006年

冒頭からのハイテンションに、まさかこのまま130分いくつもりか、
と危惧したわけだが、けっこうそのまま行っちゃった。行けちゃう
んだ、という驚きもあり、たいへんな力作であることはよくわかっ
たので、★ひとつオマケ。

ここまですさまじい執念をもって中島哲也が描きたかった「松子
の生涯」が意味するものはいったい何なんだろう。
まあとりあえず、松子の病弱な妹の役で市川実日子が出演して
いて、得した気分。正しい使い方。

                                                            5.5(月) BSプレミアム