2012年12月17日月曜日

冬の読書


『悪人』
吉田修一 著    朝日文庫

これはすごかった。この描き込まれた重層性、きみはドストエフ
スキーか! 描かれた人物たちが、みな眼前にありありと浮か
ぶようである。それが増尾の友だちやヘルス嬢のような脇役に
至るまでそうなのだから、その筆力には恐れ入る。

"吉田修一好き"を標榜していながら、この代表作を読んでいない
のは「マズいよなぁ」とずっと思っていたので、ようやく約束を果た
したような感じがする。

吉田作品で文庫になってるのはほとんど読んでいるが、物語に
「引きずり込む」力は一番強いかもしれない。あまりの面白さに、
熱中して思わず上下巻を3日で読んでしまった。

いったい誰が「悪人」なのか。それがすんなり判るんであれば、こ
んな小説は要らないってことなのだろう。素晴らしい小説でした。







『うほほいシネクラブ 街場の映画論
内田樹 著     文春新書

とにかく「読ます」ね、このひとは。"解釈病"と自らを揶揄している
が、どんなにくだらない映画にも、もっともらしい解釈を加えずには
いられないらしい。「○○は実は△△だったのだ」という形式が多
いのだが、そこにひとを惹きつけるキャッチーなものを持って来る
才がある。

今回は、そのウチダ先生をもってして思わず解釈を放棄させかけ
たデヴィッド・リンチ評がおもしろい。村上春樹の世界と「世界の描
き方において」通じるものがある、としばしば言われるリンチ。なの
で、当然批評界のハスミンはリンチは嫌いらしいが。
かくいう私は、デヴィッド・リンチが大好きである。誰それ、気になる、
という方は『マルホランド・ドライブ』をぜひどうぞ。ちょい怖なので注
意ですが。


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