2014年1月1日水曜日

あまちゃん ―脚本家と視聴者の「幸福な信頼関係」


賀正。

本年もどうぞよろしくお願いします。このブログもなんとか続い
ています。

さて、ベストテン発表の前に――

2013年の最も優れた映像作品は「あまちゃん」で間違いない、
というのは前提としてまず言っておかねばなるまい。あのドラマ
が「日本の朝を明るくした」というような表現を、私はちっとも大
げさとは思わない。竜巻のように日本中を巻き込みながら半年
間を駆け抜けていった――という印象である。

クドカンという才能と、朝ドラという形式の幸福な出会い。それ
は「小劇場の笑い」と、二人の少女のビルドゥングスロマンとが
渾然と溶け合い、三代にわたる岩手の「女の物語」を縦糸とし
て、「アイドル」「観光」「芸能界」など、さまざまな要素を横糸とし
て張りめぐらせた、極めて複雑なドラマでもあった。

朝ドラは言うまでもなく、その日の15分を観た後、また1日「その
先」を気にする時間があるわけで、展開上無理のあるところを
「勢いでごまかす」ということができない。のみならず、これだけ
長いドラマだと、たとえ小さなごまかしであっても、それが澱の
ように溜まり、ドラマ全体を蝕んでいくという事もあるだろう。
ユイが居ない状況で東京篇はどうなるんだろう。国民投票でクビ
になったアキはどうなるんだろう。太巻の事務所をやめてアキと
春子はどうするんだろう。種市先輩との恋愛はどうなるんだろう。
あの震災をどう描くんだろう。岩手に戻ったアキは何をするんだ
ろう。帰って来たアキにユイはどう接するんだろう…。

信じ難いことだが、クドカンはすべてに対して逃げずにきっちりと
答えを返した。もしくは伏線を張ってちゃんと種明かしをした。そ
れはどれも実に見事なものだった。自然と、「クドカンならちゃん
とやってくれる」という、いわば"幸福な信頼関係"のようなものが、
日を追うごとに脚本家と視聴者との間に形成されていったのだ。
そんな光景を目の当たりにしたのは私は初めてだったし、156話
にもわたる朝ドラという形式だからこそ、それは可能なことだった
のだと今にして思う。それは実に不思議な感覚だったのだ。

ということで、これから去年の映画のベストテンを発表したいわけ
だが、あまりに圧倒的だった「あまちゃん」の前には、すべての映
像作品は遠くかすんでしまいましたよ、ということを最初に言って
おきたかったのである。


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