2019年7月9日火曜日

読書⑥


『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか
塩田明彦 著   イースト・プレス

古今東西、さまざまな映画を俎上にのせてその演
出術を解き明かしながら、みずからの演出につい
ても惜しみなく披露してくれている。別に映画監
督をめざしていなくても、ふだんドラマや映画を
観るにあたって「ためになる」本だと思う。
わたしは昔から塩田さんの映画に心惹かれてきた。
はっきりと何に心惹かれてきたのか指し示すこと
はできないのだけれど、演出というのは多分に、
何かを「する」ことよりも何かを「しない」こと
で少しづつ形を帯びていくものだと私は思ってい
る。つまりそれはパッと観てすぐに諒解できるも
のではなく、何本もそのひとの作品に触れていく
うちに、「なんとなくこのひとの作品が好き」と
いう感じに深まってくるものだろう。










『戦う操縦士』
サン=テグジュペリ 著 鈴木雅生 訳 光文社古典新訳文庫

ちょっとした休みがあったので、こうして何冊か
本を読めた。締めくくりに何を読んでやろうかと
考えて本棚を見ていたら、「おれを読め」と言っ
てきた(気がした)ので、読んでみることにした。
サン=テグジュペリはもちろん『ちいさな王子』
以外に読んだことはない。

実際に戦闘機のパイロットとして従軍した経験を
もつサン=テグジュペリにしか書けない小説だ。
もうちょっと操縦士が戦う場面が多いのかと思っ
たが、けっこう延々と思索がつづき、観念的な文
章がどこまでいっても続く。これがアメリカでベ
ストセラーになった背景には当時の戦況やフラン
スの立場など、筆者の意志とはだいぶ乖離した事
情もあったようで、しかしそれは同時にいまより
も活字というものがもっとずっと力を持っていた
時代のこととして少しうらやましくもある。






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