2015年1月17日土曜日

君よ憤怒の河を渉れ


☆☆☆★        佐藤純彌       1976年

無実の容疑をかけられた健さんが逃げ回りながら事件の
真相に迫っていくサスペンス。筋書はかなりむちゃくちゃで、
突っ込みどころは『インターステラー』をはるかに上回り200
箇所ぐらいはあったと思うが、その荒唐無稽さも、一度受け
入れてしまえば苦笑しながら楽しめる。ヒロインの中野良子
も、最初は全然可愛いと思わないけど、だんだんと見慣れ
てくる。

冒頭、赤文字で毒々しく大書されたタイトルの「憤怒」の部分
に、ご丁寧にも「ふんど」とルビが振ってあったのには思わず
ずっこける。どうも原作と映画版の違いを出すために、映画
版ではそう読ませているらしい。でも正直、かっこ悪いよな。

                                                             1.15(木) BS日テレ


2015年1月14日水曜日

細雪


☆☆☆★★        市川崑       1983年

冒頭の畳みかけるようなドアップの連続からして、もう既に
市川監督の世界に引きずり込まれる感じがする。映像美の
追求もこの映画の見所のひとつで、ときどき照明がヘンな色
だったりしたが、咲き誇る桜の下を優雅に歩く華やかな四姉
妹のなんと美しいことか。

長女・鶴子 岸恵子
次女・幸子 佐久間良子
三女・雪子 吉永小百合
末娘・妙子 古手川祐子

豪華な四姉妹の共演である。加えて鶴子の旦那が伊丹十三、
幸子の旦那が石坂浩二。この石坂浩二がなんだか信用でき
ないやつで、どうも雪子のことが好きらしい。ちょいちょい怪し
い行動をする。リリー・フランキー風に言えば「すかんたらしい
奴」である。
基本的に、雪子の見合いを中心として話は進む。結婚する気
があるのか無いのか、なかなか不思議ちゃんな三女であって、
おっとりしているようであり、でも芯はありそうな、なのに石坂
浩二にちょっかい出されても平然としていて、摑みどころがな
いのである。そこがおもしろいのだが、吉永小百合がけっこう
はまっている。

また方言好きの私としては、あれは関西の上流階級の呼び方
なのだろうか、末娘のことを「こいさん」、三女のことを「きあん
ちゃん」、次女のことを「なかあんちゃん」とみなが呼ぶのが気
にかかる。

まあいずれ原作を読まねばならんでしょうね……。

                                                             1.13(火) BS-TBS


2015年1月11日日曜日

トゥルー・ロマンス


☆☆☆★★     トニー・スコット     1994年

「ディレクターズ・カット版」を鑑賞。めでたい初映画。

まず何よりも「タランティーノが脚本の」と付く映画ですな。
監督より脚本家の名前が常に先行している珍しい例といえ
る。トニー・スコットだって立派な巨匠だが。

アラバマとクラレンスの、題名通り「本当の恋」の物語である。
主役の二人もぶっ飛んでるし、出て来るひとみんなぶっ飛ん
でいる。やっぱりタランティーノは殺し屋関係のひとを描くと
天下一品である。最近よく見るクリストファー・ウォーケン演じ
るシシリア生まれのヤクザと、アラバマをどつきまくった殺し
屋を堪能。

他人に迷惑をかけながらの逃避行はあまり好きじゃないと前
に書いたことがあるのは承知のうえで、この映画は好きだ。
ふたりが爽やかなのがいい。

                                                          1.9(金) シネマート新宿


2015年1月8日木曜日

年末の読書


12月頃に読んでた本。

『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論
鈴木涼美 著      幻冬舎

秋頃からずっとこの方が気になっている。
きっかけは、まあやはり週刊文春の記事ということになる。
ただどちらかというと、日経の記者が元AV女優だった! という
扇情的な内容よりも、彼女の経歴(慶応~東大院~日経新聞)
と、取材された彼女の受け答え、そして父親がフロイトやユング
の研究者の鈴木晶、という異彩を放ちまくってる感じに興味をそ
そられたわけである。以下記事から引用。

「入社してすぐに元カレが嫌がらせで親に私の(AVの)出演作を
添付したメールを送っちゃって……。父は『お前がそこまで狂った
女だとは思わなかった』とは言いましたが、『それで親の愛情が
変わることはない』と許してくれました」

この父親の理性的な対応、娘がAVに出ていたことを知った親の
対応として、これ以上のものを私は思い付けません。

とまあ、文春がきっかけで彼女を知り、当然ながら画像検索もひ
ととおり済ませ、修士論文に加筆して上梓し、あの小熊英二にも
称賛されたという『「AV女優」の社会学』(青土社)を購入し(未読)、
Twitterも読むようになり、その頃からちらほらインタビューやコラ
ムがネット上にアップされるようになってそれらを残らず読み(これ
がおもしろい)、そうこうしているうちに幻冬舎plus連載のコラムを
集めた本書がようやく刊行された。「発売を楽しみにして、買って、
すぐ読む」って、この感覚、なんだか久しぶりだな、とか思いなが
ら読んだのである。

前置きが大変長くなりましたが、おもしろかったです。










『ニッポンの音楽』
佐々木敦 著      講談社現代新書

『ニッポンの思想』の頃からアナウンスされていたことを考えると、
いったい何年待たせるんだよという感じで、まあ楽しみにしていた。

日本のポピュラー・ミュージックを概観するために佐々木敦が拠り
所としたのは、「リスナー型ミュージシャン」の系譜という意外なもの。
つまり、自らも熱狂的な音楽マニアであるミュージシャン達である。
とはいえミュージシャンはたいてい音楽マニアも兼ねている気もす
るが、聴いた音楽、それもおもに海外の音楽に触発され、それらを
能動的に取り込むことで、自らの創造する音楽を刻々と変容させて
きたミュージシャン、と言えるかもしれない。
だから、この本にシンガーソングライターはあまり登場しない。それ
よりは職人型、プロデューサー型のミュージシャンが多く登場する。
主要人物/バンドは、

はっぴいえんど~YMO~渋谷系~小室哲哉~中田ヤスタカ

時代順にこういうことになる。渋谷系までは、私が普段から愛聴して
いる音楽そのものである。なので佐々木敦に未知の音楽を教えて
もらえる感じではなく、私としては少し肩すかしではあった。

まあ結局、細野晴臣と坂本龍一はすげぇっていう話だと私には思え
たのだけど、違う?

2015年1月7日水曜日

新春テレビ


「花燃ゆ」第一回は微妙だったなぁ。今後に期待。
「ブラタモリ 京都編」はまあまあ良かった。
首藤アナには久保田アナのトボけた味はないけど、
マジメそうな人柄が出ていたと思う。
南禅寺の疎水を案内したねえちゃんがおもしろかった。

とりあえず新春は

◆毎週木曜 Eテレ
 「岩井俊二のMOVIEラボ」

◆毎週金曜深夜 テレビ東京
 「山田孝之の東京都北区赤羽」

を観よう!


2015年1月5日月曜日

ベストテン <旧作>


1. ドッグヴィル       L.V.トリアー      2004年
私の人生何度目かの、映画による「衝撃」だった。ギリギリの
緊張感が張りつめまくった画面は「この映画大好き」などと無
邪気に言うことを躊躇させるのに充分だが、どう観ても素晴ら
しい映画であることはどうしたって確かなのである。

2. 新幹線大爆破        佐藤純彌      1975年
「おもしろさ」「サスペンス」という点では今年1番かもしれない。
かえすがえすも短縮版で観てしまったのが悔やまれる。犯人
役、しかも爆弾魔の高倉健を見逃す手はない!

3. 八日目の蟬         成島出      2011年
赤ちゃんの頃に誘拐され、誘拐犯(永作博美)を母親と信じて
育った少女を井上真央が演じる。小池栄子も含めて、とにかく
役者がうまいこと。長尺も無駄じゃないと思わせる、秀作。

4. リアリズムの宿         山下敦弘      2004年
若気の至りで作ったバカ映画と紙一重な感じもするが、まあと
にかくおもしろい。「笑い」の映画では唯一の(『トリュフォーの
思春期』も笑わせてくれるが)ランクインであることからも分か
るけれど、ひとを笑わせるって難しいです。

5. トリュフォーの思春期       F.トリュフォー      1976年
トリュフォーに明け暮れた10月の、いちばん最後に観た作品。
捧げた1か月のすべてが報われ、何かイノセントなものに昇華
されたような、とてもすがすがしい気分だったのを覚えている。

6. ドライヴ           N.W.レフン      2012年
夜の都会を舞台にしたクライム・アクションの快作。人妻(子持
ち、夫はヤンチャなので刑務所)のキャリー・マリガンが時折見
せる憂いの表情にクラクラさせられる。ヤンチャな夫は恐いが、
「奥さん、大丈夫です。任せてください」と、つい出来もしないこ
とまで請け負ってしまいそうである。

7. 海炭市叙景       熊切和嘉      2010年
海炭市という架空の街の静謐さが、今でもありありとよみがえっ
てくる。徐々に作品の世界に引き込まれていく感覚があった。

8. イングリッシュ・ペイシェント       A.ミンゲラ      1997年
この、最初から最後までみっちり金のかかってる感じが良いと
思う。大味だけど、たまには大味なのも観たい。当ブログ公認
ミューズのひとりであるジュリエット・ビノシュが可愛い。

9. 暗殺の森            B.ベルトルッチ      1970年
正直いって内容はあまり覚えていないのだけれど、ものすごく
「名作の雰囲気」のある映画だったのは確か。雰囲気に流され
てベストテン入り。

10. 悪人              李相日      2010年
秀逸だった原作小説を丁寧に映像化していて、好感がもてる。
『平成猿蟹合戦図』も『怒り』も映画化するらしい。吉田修一は
シネフィルだから、自分の小説が映画化されるのは嬉しいのだ
ろうか。主要作品はほぼ全部映画化されているようだけど。

次点 共喰い          青山真治      2013年
こちらもけっこう忠実に原作を映像化している。しかし、最後に
付け足したシーンが余計だったような。荒井さん、生意気言って
すみません。


<講評>

こちらも、どれもとても良い映画が並んでいます。

旧作と言いつつ、新しめの映画が多かったのが去年の特徴か。
BSプレミアムで放送される映画の選者が変わったのかどうか、
本当のところは知らないが、明らかに観たい映画が減った。な
ので古い映画を観る機会が減り、レンタルしてきた、新しめの
「見逃し映画」を観ることが多くなる。

10月には有楽町に通いつめて、トリュフォー映画を13本観た。
こういう1000本ノックのような見方は私に合っているように思う
ので、これからも機会を見て映画祭や特集上映に通っていこう
と思う。学生時代のようにはいかないけれど……。


2015年1月2日金曜日

ベストテン <新作>


賀正。
今年もよろしくお願いします。

昨年のベストテン!

1. ジャージー・ボーイズ     C.イーストウッド
良い映画というのは「幸福な時間」そのものである。そんなこと
を思わせてくれた「幸福な映画」。必見。そしてイーストウッドは
来月早くも『アメリカン・スナイパー』が公開。化け物なのか。

2. ニシノユキヒコの恋と冒険     井口奈己
こちらも、観ている間なんとも至福であった。竹野内豊の気持ち
の良いぐらいのモテっぷりに、もはや羨ましいという感情すら湧
かない。本作の本田翼は助演女優賞もの。

3. ぼくたちの家族       石井裕也
石井裕也は「家族」という主題から逃げない。母の病気を経て、
次第に結束していく家族。傑作と思った。

4. ダラス・バイヤーズクラブ     J.M.ヴァレ
結局あまり話題にならなかったが、マシュー・マコノヒーの演じる
粗野でレイシストのカウボーイが良いし、ある共闘から育まれる
「友情」も素晴らしい。

5. ブルージャスミン   W.アレン
お年を召しても3、4本に1本は確実に秀作を撮るウディ・アレン。
化け物なのか。永遠に映画を撮ってほしいひとのひとり。

6. ゴーン・ガール         D.フィンチャー
何本作っても狂人の展覧会の様相を呈するフィンチャーさんだが、
本作の狂人もなかなかイケてる。結婚前のカップルにおすすめ。

7. 私の男           熊切和嘉
こういう内容では紋別市も果たしてわが街をPRしていいものやら
分からないかもしれないが、映画は秀作です。自信をもって下さい。
近親相姦に悩むひとにおすすめ。

8. グランド・ブダペスト・ホテル     W.アンダーソン
すでに孤高の存在という感じだが、このひとにはどんどん予算を
与えて、こういう精緻の極みみたいな唯一無二の映画をたくさん
作ってもらったほうが良いと思う。

9. ほとりの朔子         深田晃司
勝手に2014年の「拾い物」ナンバーワンだと思っているが、果たし
てそう言われて監督はうれしいだろうか。この監督、覚えておいた
ほうがいいかもよ。

10. ウルフ・オブ・ウォールストリート     M.スコセッシ
楽しそうな会社だったな。アジ演説のような訓示を述べるディカプリ
オが活き活きしていた。180分が短かった。

次点 超能力研究部の3人        山下敦弘
山下監督のフェイク・ドキュメンタリーといえば『谷村美月17歳、京
都着。 ~恋が色づくその前に~』ですね。こちらはアイドル映画の
撮影現場を舞台に、ある意味でアイドル達の素を引き出すための
装置としてのフェイク・ドキュメンタリーであった。脱帽。


<講評>

ベストテンのどれも、自信をもって「良い作品でした」と言える、ある
意味で幸福な年だった。どの映画にもけっこう思い入れがある。

こうして見ると2014年はマシュー・マコノヒーの年だったと言っても
過言にはなるまい。日米の公開時期のずれもあるのだろうが『ダラ
ス・バイヤーズ クラブ』と『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と『イン
ターステラー』が同じ年に公開って、どういうことよ。かたやレイシス
トのカウボーイ、かたやいつも酒とドラッグでハイになってる金融の
プロ、かたや良き父親で頼りになる宇宙船の操縦士って、めまぐる
しくてこっちが付いていけんわ!

2014年も楽しく映画を観ることができました。


■観た新作映画
小さいおうち、ウルフ・オブ・ウォールストリート、ジョバンニの島、抱きしめたい―真実の物語―、ダラス・バイヤーズクラブ、神様のカルテ2、ブルージャスミン、野のなななのか、それでも夜は明ける、インサイド・ルーウィン・ディヴィス、ぼくたちの家族、青天の霹靂、私の男、渇き。、思い出のマーニー、グランド・ブダペスト・ホテル、ほとりの朔子、ニシノユキヒコの恋と冒険、ホットロード、TOKYO TRIBE、リトル・フォレスト 夏・秋、舞妓はレディ、フランシス・ハ、ジャージー・ボーイズ、光の音色 -THE BACK HORN Film-、ふしぎな岬の物語、インターステラー、超能力研究部の3人、サッドティー、鬼灯さん家のアネキ、ゴーン・ガール、バンクーバーの朝日(32本)