2024年8月18日日曜日

【Live!】 Cornelius

 
       Cornelius 30th Anniversary Set

 01. MIC CHECK
 02. 火花
 03. Point Of View Point
 04. Audio Architecture
 05. サウナ好きすぎ、より深く
 06. TOO PURE
 07. Another View Point
 08. Count Five or Six
 09. Helix / Spiral
 10. MIND TRAIN
 11. 霧中夢 - Dream In The Mist
 12. 蜃気楼
 13. 外は戦場だよ
 14. Wataridori
 15. Brand New Season
 16. いつか / どこか
 17. Turn Turn
 18. 環境と心理
 19. STAR FRUITS SURF RIDER
 20. THANK YOU FOR THE MUSIC

<Encore>
 01. E
 02. THE LOVE PARADE
 03. あなたがいるなら

                      7.7(日) 東京ガーデンシアター

30周年記念ライブは、隙のないハイレベルな
演奏と、それに完璧に同期した映像とによる、
息詰まるようなアートでありショーであった。
普通に拍を取れる曲の方が少ないリズム隊泣
かせのCorneliusの曲の中で、文字通り演奏を
牽引しなければならないドラマーのあらきゆ
うこは他のメンバーの3倍のギャラを貰っても
足りないぐらいの活躍だ。すさまじいほどの
正確さとキレの良さ。「マイクチェック、あー、
あー、聞こえますか」という再生音源を、ズ
ガガガという感じの生楽器の轟音で打ち破っ
たライブ幕開けの快感はひとしおであった。
そこからMC無しの20曲。MCは無いが遊び心
は演奏の随所に感じられ、選曲もすべてのア
ルバムを網羅していて、ちゃんと30周年やっ
ていた。

私は「外は戦場だよ」がすごく好きな曲なの
で、やってくれたのはたいへん嬉しかったが、
やはり青葉市子の方に軍配。
ベストアクトは「Wataridori」にするか。め
ちゃくちゃ好きな曲というわけでもないが、
意外にライブ映えするなと思った。ギターが
カッコいい。




2024年8月3日土曜日

【Live!】村上JAM vol.3

 
 熱く優しい、フュージョンナイト

前半
 1. Jean Pierre
 2. Tipatina's
 3. Ana Maria
 4. Spain

後半
 5. Direction
 6. Cantaloupe Island
 7. Wing and a prayer
 8. Chromazone

アンコール
 1. Some Skunk Funk

           6.29(土) すみだトリフォニーホール

大西順子(Piano・音楽監督)
黒田卓也(Trumpet)
Eric Harland(Drums)
John Patitucci(Bass)
Kirk Whalum(Sax)
Mike Stern(Guitar)


ついに「動く村上春樹」を目撃してしまった。
とはいえ、高校時代なら「文学の神を見た」
とさぞ舞い上がっただろうが、今となっては
近頃やたらと下界に降りてくるおじいちゃん
作家を観たからといって、別に有頂天になっ
たりはしない。でも生きているうちに実物を
見られてよかったとは思う。なんせ村上春樹
だ。

ライブの前に少し坂本美雨とのトークがあっ
た。そこで当然「村上さん、フュージョンと
はどんな音楽なんでしょう?」という質問が
春樹になされる。それに「詳しく説明しだす
と2時間かかっちゃうんだけど」とか言いな
がらさらっと解説をしたのだが、それが簡潔
で要を得ていながら文章としてもよくできて
いて、やはりさすがだなと思った。

だいたいこんなことを言っていた。

  60年代終わり頃のジャズには2つの流れ
 があって、1つはモード・ジャズ。もう1
 つがフリー・ジャズ。その2つが突きつめ
 られて行くところまで行っちゃって、コル
 トレーンの死によって行き詰まっちゃった
 んです。そこに突如出現したのがフュージ
 ョンで、それはまるでこもった空気の部屋
 の窓を開け放ったような感覚がありました。
  フュージョンという音楽を定義づけるの
 は難しいんだけど、条件としては
 ①電子楽器を使っていること。特にエレキ
  ベースとエレピ。
 ②明確なリズムがあること
 ということは言えるんじゃないかな。

やっぱり「コルトレーンの死によって」という
部分が肝ですよね。色んなことを想像させる
フレーズで、これが有ると無いとでは大違い、
という気がする。

ながなが書いてしまったが、本編のライブは
どこまでも熱く、華麗なインプロビゼーショ
ンの世界でしたよ。即席バンドということが
信じられないほど、ソリッドで豊穣なアンサ
ンブルが繰り広げられた。Mike Sternが演奏
を引っ張っていたが、「ギターは顔で弾く」
を地で行くようなひとで、表情豊かで見てい
ておもしろい。ドラムのEric Harlandは若き
才能とのことで、めちゃくちゃにうまかった。

すみだトリフォニーホールは初めて行ったが、
良い響きのホールで、規模もちょうどいい。
満足感に包まれ、慣れない錦糸町のまちを歩
いた。

2024年7月21日日曜日

蛇の道

 
☆☆☆     黒沢清    2024年

なんかどうも最後まで乗れなかった…。
フランスの観客向けに、少し話を分かりやすく
してる? バシュレ(=香川照之の役)ってあ
んなに序盤から怪しかったっけ? どうも綻び
が見えてくるのが早すぎるような気がした。
そして解決にともなうカタルシスというものが
まったくない、いやーな気持ちのまま終わる映
画である。それは哀川翔版と変わってないか。

観客としては、黒沢清特有の「カットの途中で
勝手に動き出すカメラ」に気持ちよく翻弄され
た。ルンバを使ったカットもおもしろかった。

そしてまた青木崇高! 最近多いな。

      6.18(火) ヒューマントラストシネマ渋谷




2024年7月4日木曜日

ミッシング

 
☆☆☆★★    𠮷田恵輔   2024年

ある日突然、娘がいなくなってしまう…。
探し回っても見つからず、若い両親は警察や
報道機関を頼るが、世間の注目を浴びたこと
で、ネット上での誹謗中傷にもさらされる。

観ていて辛い映画だが、石原さとみが「口が
悪い」「裏表がある」役柄なので、なんとか
観ていられる。ずっと母親に感情移入してい
たら、とてもじゃないがもたないだろう。し
かし石原さとみの芝居もかなり入り込んでい
るから、どうしてもそちらに吸い込まれてし
まう瞬間はある。「娘がいなくなってしまっ
た母親」に感情移入したら、そりゃあ泣きま
すわね。

夫の青木崇高との「夫婦間の軋み」もものす
ごくリアルでおそろしい。一刻も早く娘を見
つけ出したいという思いはどちらも一緒なの
に、些細な事でどうしてもギスギスしてしま
うという…。

中村倫也が事件に関心をもって報道を続けて
いるディレクター。半年経ち、一年経ち、事
件への世間の関心が薄れていく中で、何か新
しい切り口が無いと番組は制作できないと上
層部に告げられ、煩悶する。正直この役柄は
紋切り型というか、「エルピス」で似たよう
な葛藤をすでに観た感あり。
森優作がコミュ障ぎみの石原さとみの弟を好
演している。 

                     5.20(月) TOHOシネマズ渋谷




2024年6月23日日曜日

読書④

 
『三つの物語』
フローベール 著 谷口亜沙子  訳 光文社古典新訳文庫

モーパッサンの短篇がとても好みに合ったの
で、フローベールの短篇はどうだろうと思い、
読んでみる。読んでから知ったが、本書はフ
ローベール晩年の、形になった「最後の作品」
といっていいものらしい。おそるべき「推敲
のひと」であったフローベールが、自身の最
後(になるかもしれない)の短篇集に多大な
情熱を注いだであろうことは想像がつく(よ
うな気がする)。

まず「素朴なひと」。無学で、文盲で、どこ
までも愚直な、純真な召使いの一生の話なの
だが、「素朴なひと」というタイトルにアイ
ロニカルな響きを感じていたのは途中までで、
最後まで読むとこのタイトルにやっと追いつ
けたという感じがする。

二つ目は「聖ジュリアン伝」。残虐で自信過
剰な主人公が聖人になるまでの物語で、フロ
ーベールの地元の教会にあったステンドグラ
スに描かれていた絵がもとになっているとい
う。動物を殺す描写が延々と続いたり、血な
まぐさい話だが、無駄のない文章の密度が高
く、読みごたえ充分である。

最後は「ヘロディアス」。戯曲やオペラなど
に多く翻案されている新約聖書の「サロメ」
のエピソードに基づいている。この小説は特
に登場人物や前提となる状況が分かりにくく、
いったい何の話をされているのか最初はまっ
たくピンとこない。しかし巻末の訳者による
親切な解説によれば、それは当時のフランス
の読者にしても同じことだから、気にせず読
み進めればよろしいとのこと。フローベール
はちゃんと計算して省略する部分と説明を補
うべき部分を峻別しており、それを事細かに
解説してくれている。古典新訳文庫を買う意
味はこういうところにあるのである。














『保守のヒント』
中島岳志 著   中公文庫

「保守」の意味するところがあいまいになり、
ときに右翼系の政治家に都合よく利用されて
いるような現状を憂う著者は、本書の中で
(だけでなく他の著書の中でも)何度も何度
も「保守」の定義づけを繰り返す。

 保守は「復古」でも「反動」でも「進歩」
 でもない。不完全な人間は、不完全な社会
 しか造ることはできない。人間が完成不可
 能な動物である限り、パーフェクトな社会
 は現前しない。保守は人間の理性への過信
 を諫め、能力の限界を冷静に見つめる。そ
 して、個人の個性が歴史という時間軸と共
 同性という空間軸の交点において構成され
 ることを、保守主義者は静かに受け入れる。
 保守は性急な理論主義を退け、歴史の風雪
 に耐えてきた伝統や良識を重んじる。保守
 は歴史の連続性と具体性の上に立ち、変化
 の渦のなかでも恒常的存在として継承され
 る精神の形を大切にする。

なるほど保守がそういうものなら、私もその
考えに賛同できる部分は多い。私が「保守」
という言葉に身構えてしまうのは、結局のと
ころ安倍晋三が原因である。そういうひとは
多かろう。著者はしかし、安倍晋三の政治信
条は単なる「反左翼」「反進歩的文化人」で
あって、保守とは程遠いものであると断じる。
その安倍晋三が保守を自称してしまったこと、
さらにそこに世の中の右傾化とが相まって、
「反左翼的なもの」がすべて保守ということ
になって今に至るというわけである。

とまれ、本書でおもしろいのは政治状況の分
析よりも、著者が橋川文三にのめりこんだ経
緯や、明治・大正の超国家主義者たちの文章
への関心などの、どちらかというと人文的な
方面である。
福田恒存も、私でも読んだことがある有名な
著作が引用されている。孫引きとなるが書き
写そう。新仮名遣いなのが残念だが。

 私たちが真に求めているものは自由ではな
 い。私たちが欲するのは、事が起るべくし
 て起っているということだ。そして、その
 なかに登場して一定の役割をつとめ、なさ
 ねばならぬことをしているという実感だ。
 なにをしてもよく、なんでもできる状態な
 ど、私たちは欲してはいない。ある役を演
 じなければならず、その役を投げれば、他
 に支障が生じ、時間が停滞する――ほしい
 のは、そういう実感だ。
        『人間・この劇的なるもの』

まったくその通りというほかなく、なるほど
「保守」という文脈でこの文章を読めば、さ
らに腑に落ちるというものだ。



2024年6月9日日曜日

【LIVE!】 小沢健二


   monochromatic

 1. フクロウの声が聞こえる
 2. 天使たちのシーン
 3. ラブリー
 4. さよならなんて云えないよ
 5. 運命、というかUFOに(ドゥイ、ドゥイ)
 6. 台所は毎日の巡礼
 7. いちごが染まる
 8. River Suite 川の組曲
 アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)/いちょう並木のセレナーデ
 9. サマージャム'95
10. 魔法がかかる夜、大阪にいる
11. Noize
12. ある光
13. 輝夜神楽(巨大な哀しみの時代に)
14. ぶぎ・ばく・べいびー
15. 強い気持ち・強い愛
16. ライツカメラアクション
17. 今夜はブギー・バック
18. 台所は毎日の巡礼

(Encore)
 1. 彗星
 2. 流動体について
 3. 弾き語りメドレー ぶぎ・ばく・べいびー~魔法がかかる夜、大阪にいる~輝夜神楽(巨大な哀しみの時代に)
 4. ぶぎ・ばく・べいびー

                        5.8(水) NHKホール


monochromaticがテーマの東名阪ツアーとい
うことで、演出として照明に色を付けない。
それゆえ観客もmonochromaticな服を着てき
てください、という注文である。もともとオザ
ケンが嫌いなひとならもうこの時点で「そうい
うとこが嫌い」だと思うが、ファンはいそいそ
と「えー、何着ようかな」などとブツブツ言い
ながらもちゃんと考えてライブに臨むのである。

バンドも良いバンドであるし、NHKホールは音
も良いし、新曲がほどよく混ざったセットリス
トもよく練られているし、出ないことになって
いたスチャダラパーもちゃんと出演し、おおい
に満足であった。今回もサポートギターは無し。
自信の表れだと思うが、しっかりと高い水準を
保っているからさすがである。「流動体につい
て」のギターソロなんて「もっとやればいいの
に!」だった。

ベストアクトは「Noize」か、と思ったぐらい
よかったのだが、「ある光」がそれを上回って
きた。前もベストに選んだからまたか、とは思
うものの、どうしようもなく良かった。もとも
と宗教的な側面のある歌だと個人的には捉えて
いるのだが、チューブラーベルが加わっていっ
そう神々しさが増した素晴らしい演奏だった。
「僕のアーバンブルースへの貢献!」という
小沢君の叫びで感慨に打たれる。


2024年5月26日日曜日

悪は存在しない

 
☆☆☆★★★  濱口竜介   2024年

あのラストカットの意味をずっと考えている
が、正直言って分からない。しかし諦めきれ
ずに何度も何度も、頭の中でラストシーンを
再生してみる。そしてそこに至るまでの過程、
どうしてああなってしまったのか、映画の始
まりからいま一度考えてみる。しかもそこに
「悪は存在しない」と濱口は云うのである。
うーん。

真上に向けて固定されたカメラによる移動
ショット(真俯瞰と逆のこのショットはなん
と呼べばいいのか)でとらえられた冬の森。
枝の連なりが次第に別の何か禍々しいものに
見えてくる。もともと石橋英子のライブで流
す映像を制作してくれという依頼から生まれ
た映画だからか、ワンカットが長く、時に技
巧的でもある。しかしこの役者たちの「そこ
で生きている」感はいったいどこからうまれ
てくるのか。かくも演出とは奥の深いもので
すね…。

    4.27(土) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下