2022年12月14日水曜日

読書⑲

 
『街と犬たち』
バルガス・ジョサ 著  寺尾隆吉 訳
光文社古典新訳文庫

税込み1694円というとすでに文庫本の値段で
はないようにも思われるが、これだけ分厚いと
どれだけがんばっても1週間はかかることを考
えると、1週間も楽しめてたったの1700円は安
いともいえる。というか私はいつもそう考えて
しまう。

世界的なラテン・アメリカ文学ブームの火付け
役となったと言われる本書は、レオンシオ・プ
ラド軍人養成学校というペルーに実在の学校を
舞台にした、野蛮で猥雑で「不届き」な小説で
ある。実際、レオンシオ・プラドから抗議も受
けたという。小説の中で、貧困とか「根性を叩
き直す」と親に強制的に入れられたとか、様々
な理由で入学したティーンエイジャーたちが訓
練を受ける軍人学校では、上級生による下級生
への壮絶ないじめが常態化している。下級生は
「犬」と呼ばれ、人権は無いに等しい。また当
然のように酒、たばこ、賭け事、試験問題の不
正取得などの「ほぼ犯罪」が蔓延している。ま
あ実在の学校からすればたまったものではない
だろう。
物語は、ラブレターの代筆やエロ小説を書いて
売ることでうまくやっているアルベルトと、上
級生をも恐れぬ腕っぷしと胆力でリーダー的存
在となったジャガーの二人を軸に進んでいく。
それはやがて一発の銃弾に収斂していくのだが、
時間と空間を頻繁に行き来する構成、会話だけ
が延々と地の文で続く章があるなど、すでにラ
テン・アメリカ文学の特徴であるナラティブへ
の明確な意識がここにはある。ページを繰るの
をやめられないという独特の引力も…。

しかしひとつ言うと、旧訳の『都会と犬ども』
のほうが、タイトルとしては良い気がする。
そして表紙の犬の絵がちょっと脱力系なのも
あまり合っていない。














聞き書き 倉本聰 ドラマ人生』
北海道新聞社

1年半もの期間に及ぶ長時間インタビューを
もとに構成された本書では、倉本聰というま
さに「日本のテレビドラマそのもの」である
ような巨大な存在が、どのようにして生まれ、
膨大な量の作品を書き続けて来れたのかが語
られる。

最初はニッポン放送に勤めながらペンネーム
で書いていたので、上司に「最近出てきたこ
の『倉本聰』ってのに会いに行ってこい」と
命じられて困った話や、大河ドラマ『勝海舟』
を降板してそのまま北海道に移住してしまっ
た話など、まあどこかで聞き覚えはあるのだ
が、おもしろいエピソードには事欠かない。
それにしても多作なのにはあらためて驚嘆す
る。

初めて知ったが、大江健三郎と東大の同級な
のである。学生新聞で柏原兵三を入れた3人
で鼎談したこともあり、柏原は感じがよくて、
大江は感じが悪かったというのが私にはもう
おもしろい。「北の国から」に「こごみ」と
いう色っぽくて奔放な飲み屋の女が出て来て
黒板五郎と恋仲になるのだが、ある時倉本と
すれ違ったときに大江が「こごみって良いね」
と言ったというのである。そうかぁ、大江健
三郎も「北の国から」を観てるんですねー。


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