2022年12月6日火曜日

読書⑱

 
『月日の残像』
山田太一 著  新潮文庫

「考える人」に連載されていた長めのエッ
セイをまとめたもの。
山田太一が松竹大船撮影所で助監督をして
いたとは知らなかった。その頃の思い出に
は木下恵介や小津安二郎も出てくる。
タイトルからも分かるように、昔の記憶、
それも幼い頃に見た風景や交わした会話な
どを起点につづられる文章なのだが、その
記憶はどちらかというと苦いものが多い。
苦いだけでなく、滑稽さや恥ずかしさ、や
るせなさが入り混じった、なんとも形容し
がたい感情を、ほんとうによく覚えている
というか、それをそのまま文章で喚起して
みせる能力には驚かされる。あるいは脚本
家というのはそういう能力に秀でた者がな
るものかもしれない。流麗な文章では決し
てないのだが、どんどん次が読みたくなる。














『獣でなぜ悪い』
園子温 著  文藝春秋  

今となってはなんだか意味深なタイトルに
なってしまったが、買ったのはずいぶん前
のことである。
女優を主人公に数々の破格の映画を撮って
きた園子温による「女性論」になっており、
ちょっと危ない話も書いてあるのかと思い
きや、至って誠実に、自分がどういう道筋
をたどって女性が主役の映画ばかり撮るよ
うになったかを書いている。『紀子の食卓』
を撮影したことによって、さらに言えばそ
こで吉高由里子というまったくのド新人を
演出したことによって、自分はようやく映
画監督というものになることができた、と
いうことなのである。

このエッセイのおもしろさは「率直さ」か
ら来ていると思う。『愛のむきだし』や
『ヒミズ』といった自分の映画の制作過程
を振り返りながら、のちに妻となった神楽
坂恵との出会い、彼女の本名が母親と同じ
「いづみ」だったことから「これじゃまる
でマザコンのようだ、なんとか克服しない
といけない」と、『恋の罪』での役名を
「いずみ」にしたことなど、この時期の園
映画をかなり熱心に観ていた私でも知らな
いことばかりだ。

そして今の若者に向けた檄文でもある本書
の主張は
「映画なんか見なくていいから古典を読め!」
という意外にまともというか、アナクロな
もの。旧作邦画をクサす場面では、『浮雲』
なんて不愉快なだけでなんにもおもしろくな
いじゃないかと主張しており、私もそう思っ
ていたので溜飲を下げる。



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