2011年2月4日金曜日

[最近読んだ本 まとめて②]

『楽園への道』  マリオ・バルガス=リョサ  河出書房新社

ひさびさに小説好きの血が騒いだ。読むのをやめられない大
長篇ほど好きなものは無い。寝る前に「今日も続きが読める」
とウキウキしながら1章か2章を読む。「もう1章ぐらいいける気
がするけど、今日はこのへんでやめとくか」と本を伏せ、布団
をかぶってすやすや寝る。これぐらい幸せなことはちょっと無い。

この小説は簡単にいえば、ゴーギャンの章と、ゴーギャンの祖
母で女性解放に奔走した革命家フローラ・トリスタンの章が交
互にあらわれるいわば「村上春樹形式」(違うか…)。ただ、語
り手の存在がちょっと変わっていて、たとえばフローラの章だと
「あのときのお前は怒りのあまり前後の見境をなくしていたよね、
フローラ」という感じで、地の文の途中でやたらフローラに語り
かける。ゴーギャンの章も同様。「えーそんなのうるさい」と思う
かもしれないが、ノンノン、これがなかなか癖になってくる。もう
語りかけない本が物足りなくなってくる。というのは嘘だが、この
慈愛のこもった「語りかけ」がけっこう効いている。

ゴーギャンの小説といえば、当然サマセット・モーム『月と六ペン
ス』が自動的に想起されるが、そこはうまいことカブらないように
棲み分けがなされている。『月と六ペンス』はゴーギャンとその気
の毒な友(ストリンドベリ、だっけ)の話が中心だったと記憶してい
るが『楽園への道』はタヒチに移り住んでからのゴーギャン、奔放
に生きながら絵を描きまくり、やがて病を得て衰弱して死んでいく
ゴーギャンの姿を中心に据えている。大柄で野獣めいた、無礼な
男、という描写は両方に共通しているにしても、小説を通して立ち
上がってくるゴーギャン像はだいぶ違ってくる。
小説としてのドライブ感に関しては『楽園への道』に軍配があがる
か。読んでてとにかく血が騒ぐのである。

※「ストリンドベリ」じゃなかった。ゴーギャン=ストリックランド、その
気の毒な友人=ストルーヴでした。ちなみに僕は光文社古典新訳
文庫で読みました。あの文庫シリーズは応援しないわけにはいか
ない。

『A3』  森達也  文藝春秋

森達也入魂の、必殺の、しかし平熱の『A』シリーズももう3作目。
『A』『A2』はドキュメンタリーを手法とした映画だったわけだが、3作
目は活字。まあ森さんは既にほぼ執筆業にシフトし終わった感が
あるので、もはや不思議なことではないが。
麻原の死刑判決に焦点を絞って、徹底的に書きまくった本作。
一個一個、慎重に石を積み上げるような論の展開には、かなりの
説得力がある。「おもしろい」という言葉を使うには、実際の死者が
多すぎ、実際の死刑囚が多すぎるが、しかし1冊の本として、実に
おもしろいのである。


『夢を見るために 毎朝僕は目覚めるのです』
村上春樹  文藝春秋

昨年出たインタビュー集。出た直後に半分ぐらい読み、同じ内容
の受け答えが頻出するのにいったん飽きて、しばらく冷却期間を
置いた。3ヶ月ほど英気を養って、今度は無事に読了。いや、つま
んないってことじゃないよ。もちろん。ただどっかで聞いたような話
がたいへん多い。色んな国で受けたインタビューがあるので、しょ
うがないといえばしょうがないが。春樹が29歳の春、神宮球場で
ヤクルト戦を見ていて、1回裏にデイブ・ヒルトンが2塁打を打った
瞬間「そうだ小説を書こう」と思い立って書いたのが『風の歌を聴
け』であることを知っているひとばかりでないのは分かっている。
ファンにとってはほんとに100回ぐらい聞いた話なので誰でも知っ
ているのだが。


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