2013年3月23日土曜日

にごりえ


☆☆☆★★★        今井正        1953年

樋口一葉の短篇「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」を原作とした
オムニバス映画。直球勝負の「文藝映画」といったところだが、こ
の直球の質がとんでもなくいい。「にごりえ」の淡島千景が素晴らし
いのはもちろんだが、「十三夜」も先鋒としての役割を十二分に果
たす秀作。「大つごもり」もまた良い。結局、全部良い。

こないだ『祇園の姉妹』の記事で、セリフがわからなかったと書いた。
だいたい観終わるとすぐHDDから消してしまうので、あの時は例を
挙げられなかったが、今回は印象に残っている部分を少し挙げて
みることにしよう。

商売女の淡島千景が、帰ろうとする山村聰に

嘘か真か九十九夜
通いつめたらわかります

という場面がある。なんで「九十九夜」が出てくるのかが分からない。
語呂がいいので決まり文句かと見当をつけたが、グーグル先生に
訊いてもよくわからない。だが調べるうちに、どうやら小野小町と深
草少将の"百夜通い"の伝説を踏まえているらしいことが分かってく
る。「九十九夜」「通いつめる」というキーワードですぐ「小野小町!」
とピンと来なければいけないわけだ。

しかし山村聰はなんであんなに早く帰ったんだろう。初日はあんなも
んなのか。

そのしばらく後で、これも淡島千景だが、

お医者さまでも草津の湯でも

というセリフが出てくる。こちらはだいたい見当はついたが、再度グー
グル先生にご登場願うと、案の定、医者にも温泉にも治せない病気、
つまり「恋の病」を指す決まり文句らしい。うーん、知らなかった。

当時のひとにしてみれば、この程度の言い回しを知らぬひとはいない
から、何の説明もなくポンポン出てくるわけである。

こういうのを何の説明もなく使われると、燃えてくるのですよ。やはり
日本映画はやめられない。

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