2022年11月2日水曜日

読書⑮

 
『勝者に報酬はない キリマンジャロの雪/ヘミングウェイ全短編2
ヘミングウェイ 著 高見浩 訳 新潮文庫

ハドリーとの離婚とポーリーンとの結婚、『日
はまた昇る』という、複数の知人をモデルにし
た小説を書いたことなどにより、拠点をパリか
らフロリダ半島の先端からさらに先の、キー・
ウエストに移したヘミングウェイ。この「全短
編2」には、その時代に書かれた充実した作品
群を収める。繊細な筆致ではあるものの、なん
だか自信が漲っているとともに、このあたりの
時期から、海にクルーズ船で繰り出していって
太い腕でカジキを釣り上げているような、私た
ちがふつうイメージする(といっていいのか分
からないが)「パパ・ヘミングウェイ」の像が
かたちづくられていくようだ。
とはいえそれはポーリーンの親族の財政的な援
助あってのものだったという、訳者による解説
は今回も興味深い。

短篇集『勝者に報酬はない』はあいかわらず読
みごたえは充分で、「最前線」のようなヒヤリ
とする狂気を湛えたものがあるかと思えば、
「死ぬかと思って」の熱を出した子どもの姿は
とてもかわいかったりする。
まあしかし出色はアフリカでのハンティングの
経験を元に生まれた「キリマンジャロの雪」と
「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」
だろう。どちらも忘れがたいラストシーンが深
い余韻を残す。













『おいしいごはんが食べられますように』
高瀬隼子 著   講談社

可愛い装丁とゆるいテレビドラマのようなタ
イトルに油断すると、この不穏な小説の餌食
となるだろう。一読、「ありそうでなかった
小説」という感じがした。どこにでもある
「小さめの大企業」といったらいいのか、全
国に支社もあり、転勤もあるような会社の、
ある支社を舞台にした職場小説である。

押尾さんという人物も好感がもてて良いキャ
ラクターだが、やはり二谷という底が浅いん
だか深いんだか、そういう意味で「底が知れ
ない」人物の造形が非常にうまい。


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