2022年11月12日土曜日

読書⑯

 
『ベイルート961時間(とそれにまつわる321皿の料理)
関口涼子 著   講談社

料理に関するエッセイを書いて出版すると
いう契約で、1か月半(=961時間)ベイル
ートに滞在する機会を得た、フランス在住
の著者。自炊はしないことに決め、滞在中
に321皿の料理を食べ、321章から成るこ
の本を書き上げた。この本の特徴はなんと
いっても短い章で区切られていることで、
一つの章は長くても2ページ、短いと本文
は無くて章のタイトルが一文になっていた
りする。料理とは国民性を映すものでもあ
り、どこまでいっても個人的なものでもあ
る。
しかし書き上げた後でレバノンでは革命が
起こり、そしてベイルート港での凄惨な爆
発事故があった。本書には著者の前著にも
絡めて「カタストロフ前夜」という言葉が
何度も出てきて、それはカタストロフが起
こるまでは、人々は自分たちがカタストロ
フ前夜を生きていることを知らないという
意味で、こう書くと当たり前のことでもあ
るのだが、実際に都市の三分の一を吹き飛
ばしてしまったという爆発事故によって、
永久に失われてしまったものを思うと重み
のある言葉である。














「グレイスレス」
鈴木涼美 著   文學界2022年11月号

小説第2作は、AV女優専門の化粧師の目か
らアダルトビデオの世界を職業人の醒めた
目で描写しつつ、鎌倉とおぼしき土地で大
量の本に囲まれて祖母と暮らす主人公の生
活が、今回もわりと淡々とした文章で描か
れる。AVの撮影現場のディテイルにはもち
ろん、著者の実体験が活きているのだろう。



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