2021年7月14日水曜日

テネット

 
☆☆☆★★★ クリストファー・ノーラン 2020年

去年いちばんの話題作。待望の新作だった
ことに加えて、劇場と映画産業を守るため、
人々が外出をためらっていた不利な時期に
あえて劇場での公開に踏み切ったノーラン
の"男気"も評判を呼んだ。
が、なんといっても話題になったのはその
恐ろしいほど複雑なストーリーである。
1度目はついて行けずにたくさんの疑問符
が頭に浮かんだので、今回はYouTubeの
解説動画をしこたま観てから臨んだ。

結果、たしかに分かり易くはなった。
でもなんか「答え合わせ」しているみたい
な気分で、ちょっと"味わい"は減ったよね…。
ま、とはいえ無駄のない編集とドライブ感
にはシビれる。
それにしても、スタルスク12での順行チー
ム(赤)と逆行チーム(青)による挟撃作
戦は、解説によると逆行から順行に作戦中
に乗り替わるやつがいるので、さらに分か
りにくい。まあそれを言ったらオスロのフ
リーポートも、キエフのカーチェイスも、
分からないことだらけだが。

                             6.24(木) 早稲田松竹




2021年7月12日月曜日

メメント

 
☆☆☆★★  クリストファー・ノーラン 2000年

早稲田松竹にて、ノーラン2本立て。
本作は初見で、次の『テネット』は2度目であ
る。2本立てなので『メメント』を観てから
『テネット』か、あるいは逆がいいのか、迷
うところだが、やはり先に『テネット』を観
ると脳がオーバーヒートする恐れがあるので、
この順番にした。

妻を殺され、頭を殴られた衝撃で短期記憶に
障害を負った主人公の主観で進む物語。事件
の前の記憶はあるが、直近の10分前の記憶が
なくなってしまうため、自分の車、住居、知
り合いの顔などは写真を撮り、いろんなこと
をメモする必要がある。そして妻を殺害した
犯人に関する特に重要な情報は、体に刺青し
て刻み込んでいる。

もちろん覚悟はしていたが、複雑な脚本につ
いていくのがやっとで、心地よく振り回され
る113分。断片的に時間をさかのぼっていく
構成が斬新で、途中から順行の時間軸のシー
ンが挿入され、ある時点で交わる。撮影的に
は、ラストシーンから逆行で撮っていったの
だろうか。でないとすべてが「逆つながり」
となり、助監督が発狂しそうである。

主演はガイ・ピアース。キャリー=アン・モ
スは『テネット』のエリザベス・デビッキに
雰囲気が似ていると思う。ノーランの好みな
んだろうか。

                               6.24(木) 早稲田松竹




2021年7月10日土曜日

JUNK HEAD

 
☆☆☆★★    堀貴秀   2021年

世に「ヤバい映画」は数あるかもしれないが、
このストップモーション・アニメーション映
画ほど「映画づくり」への執念をこれでもか
と見せつけられる作品もないのではないか。
製作に7年かかったというが、出来栄えを見
ると7年でよくできたなと思う。

人工生命体が繁殖している地下世界の探検と
いうテーマはそれほど新奇ではないが、個々
のキャラクターの造形と緻密なセットの構築
に圧倒的な個性が光っている。「世界観」と
は、すっかり安易に言い古された言葉になっ
てしまったが、この映画を「独自の世界観」
と言わずに何をそういえるだろう。
不気味でグロテスクなディストピアものを、
7年も作り続けたら気が狂うんじゃないかと
心配だが、まだ3部作の1作目で、ストーリー
はもう最後までできていて出資があればいつ
でも作り始められるという意気込みを聞くと、
そのへんは平気なのだろう。げに世の中には
変わったひとがいるものだ。

                              6.23(水) シネクイント




2021年7月8日木曜日

バッファロー'66

 
☆☆☆★★  ヴィンセント・ギャロ 1998年

前回書き忘れたが「衝撃の監督デビュー作!」
という特集で、目黒シネマで2本立てを観た
のである。2本とも見ごたえがある良い映画
だった。

刑務所から出所した男(ヴィンセント・ギャ
ロ)が、「女房を連れて帰る」と母親に啖呵
を切ってしまった手前、「実は嘘でした」と
白状することもできず、たまたま近くを通り
かかった女(クリスティーナ・リッチ)を拉
致して脅迫して車を運転させた上に、自分の
妻を演じさせて実家に連れて行く(最悪だ)。
女は妻の役をわりとうまくやったのに「あり
がとう」の一言も無く、ときどき大声で怒鳴
りながら、急にボウリングの腕前を披露して
きたり、ふたりで証明写真を撮ったり、まっ
たく予想のつかない展開になってくる。まあ
とりあえず男は口は悪いが気が弱くて繊細だ
ということはとても伝わってくる。

クリスティーナ・リッチって、『アダムス・
ファミリー』のウェンズデーだったのか!
いい女になっててびっくり。

                               6.22(火) 目黒シネマ




2021年7月6日火曜日

ヴァージン・スーサイズ

 
☆☆☆★    ソフィア・コッポラ   1999年

美しい5人姉妹の謎の自殺。
センセーショナルな題材だが、不思議と
陰鬱でないのは、美少女が5人も画面に
写っているとそれだけで"陽"のエネルギ
ーが充満するからか。最後には全員が自
死してしまうとしても…。
そのはっきりとした原因が語られたり示
唆されたりすることはない。13歳の末娘
のセシリアが1度目の自殺未遂の後に医師
に語った「だって、あなたは13歳の女の
子だったことはないもの」という言葉が
象徴的であるように、まあおそらく本人
にも分からなかったものを、他人が分か
るわけもない。

                         6.22(火) 目黒シネマ




2021年7月4日日曜日

127時間

 
☆☆☆★   ダニー・ボイル   2011年

砂漠地帯のトレイルランニングを趣味にする
パリピの兄ちゃんが、ひゃっはー! と雄大な
キャニオンを快調に疾走していたら、岩が崩
れてクレバスに転落。落下した岩にちょうど
腕を挟まれる悲劇が重なり、岩の裂け目の底
で動くこともできない。
さてどうする……、という127時間。「オー
プン・エアーな密室」という語義矛盾のよう
な空間で、限られた食料と水で命をつなぐ。
1日15分間だけ射して来る陽の光を楽しみに
(『ねじまき鳥クロニクル』にもこういう描
写があったような…)、孤独と渇きと絶望と
の闘いが続いていく。うーん、やっぱりアウ
トドアって怖い! インドアが最高。

ずっと「ひとり芝居」が続くのだけれど、巧
みな編集で飽きさせない。画像は挟まる直前
のまだ楽しかった頃。

                            6.19(土) BSプレミアム




2021年7月2日金曜日

断崖

 
☆☆★★★  アルフレッド・ヒッチコック 1941年

ヒッチコック渡米後の、『レベッカ』に続
く第2作。
ジョーン・フォンテインが夫への疑心暗鬼
に囚われていく様をずっと観ていると、イ
ングリッド・バーグマンがとんでもないモ
ラハラ夫に欺かれて、「どこかおかしい」
と疑いながらもどんどん衰弱していくあの
『ガス燈』を思い出さずにいられなかった。

本作のケーリー・グラントも、平気で嘘は
つくは隠れてギャンブルはするわそれで大
損するわで相当ろくでもない性分ながら、
大スターに殺人犯は演じさせられないから
と、結局いい奴でしたという話で終わって
いる。ヒッチコックは別の結末を考えてい
たが、映画会社に却下されたという。

                          6.14(月) BSプレミアム