2010年10月30日土曜日

オン・ザ・ロード

ジャック・ケルアック 著    青山南 訳    河出文庫


読了にずいぶんかかってしまった。
おもしろくなかったわけではないが、あまり熱中できなかった
感じ。すみれ(『スプートニクの恋人』)の愛読書じゃなかった
ら、第3部ぐらいでやめてたかもしれない。

解説で青山南は、ケルアックの魅力は、その語感の鋭さと、
独特の造語の面白さである、という意味のことを書いている。
つまるところ、ケルアックの面白さをそっくりそのまま日本語
に移植するのは無理です、と言ってるようにも聞こえるが、
どうしても翻訳で読めば、個々の語感とか造語とかよりは、
ディーン・モリアーティやサル・パラダイスの「人物そのもの」
とか、路上(ロード)をひた走る「旅そのもの」に目がいってし
まう。そして、人物そのものや旅そのものは、まあ言ってしま
えばそんなに面白いもんでもない。と、思ったのだが、異論
があればお待ちしています。

2010年10月29日金曜日

オーケストラ!

☆☆☆★      ラデュ・ミヘイレアニュ   2010年

なんだかイマイチな100分 + それを全部ぶっ飛ばしてしまう圧巻
の終盤20分、という感じの本作。オーケストラの団員を集める過
程のすべては、最後のチャイコフスキーを盛り上げるためのお
膳立てに過ぎず、制作側も別にそれで構わんさと思っているフシ
さえある。でもそれはいくらなんでもチャイコフスキーに頼り過ぎ
だろう。そういう意味では「もっとがんばりましょう」のハンコを押
したい所だが、いかんせん後味がよかった…。ヴァイオリン・コン
チェルト、良い曲すぎる。私のような忘れっぽい観客は、後味だ
けを頭に留めて劇場をあとにするから、なんだか良い映画だった
ような気がしてしまう。が、決して褒められるような映画じゃなかっ
たぞ、とわずかに残った理性がいう。そんな映画。

「イングロリアス・バスターズ」のショシャーナことメラニー・ロラン
女史が主役級の役で出演している。「バスターズ」の関係者が出
てる、というだけでテンションが上がるのは、ほとんど病気だろうか。

                                    10.23(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2010年10月27日水曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN

だいぶ前になってしまったが、札幌でTHE BACK HORN
のライブを観て来た。以下はセットリスト。

  雷電
  ラフレシア
  サニー
  再生
  罠
  カラビンカ
  羽衣
  ワタボウシ
  汚れなき涙
  冬のミルク
  閉ざされた世界
  太陽の仕業
  コバルトブルー
  戦う君よ
  パレード

(アンコール)
  無限の荒野

                      Zepp Sapporo     10/16


開演時、調子にのってステージ中央の前から3列目ぐらいに
居たのだが、スピーカーがこちらを向いてないからなのか、
山田(Vo)の声のバランスが非常に小さく、なんでもっと音上
げねーんだよとイライラしたので、少しずつ上手側に移動。
スピーカーの前まで来ると、だいぶマシになった。それでも
ちょっとヴォーカル小さい気がしたが。

まあそんなのは些細なことで、ライブは快調そのものだった。
いちばん大事なのは山田の「喉の調子」で、これが良ければ
だいたい最高のライブになることは保証される。選曲は、珍し
いところでは「冬のミルク」を中盤にもってきたのと、一昨年の
マニアックヘブン以来の「カラビンカ」をやった。

ライブが終わって会場を出ると、冷たい風の吹きすさぶ札幌。
すすきのに晩飯を食いに行くと、一軒だけ場違いな古本屋が
あり、吸い込まれるように入ってしまった。店主が異様に話好
きな人で、私がじーっと演劇関係の書棚を見ていると、「他じゃ
なかなか見ないようなのがあるでしょう」から始まり、それらの
本の来歴から何からいろいろ聞かされる。たしかに珍しい本が
たくさんあったが、いかんせん高い。買うのは我慢した。

2010年10月15日金曜日

エレニの旅

☆☆☆★      テオ・アンゲロプロス     2005年

このぐらいストーリーの展開がはっきりあると助かる。
が、このストーリーがまた戦争で子どもを失う救いの無い話で、
2時間50分映画を観て結局誰も救われないとなると、さすがに
暗い話が好きな私でも気が滅入る。
果てしなく続く長回しとロングショットは、3作目の鑑賞なので、
もういちいち目くじら立てることもなく、むしろ楽しみである。5分
ぐらいカットを割らないのはもはや当たり前で、これの撮影って
誰か間違えたらカットの最初からやり直しなんだよなぁ、と思う
と「ご苦労さんです」とスタッフを労わりたくもなってくる。

しかし考えてみれば、テレビドラマと映画を隔てるものは何かと
問えば、まず挙がるのは長回しとロングショットの自由度だろう。
それをここまでおおっぴらに「映画でごわす」と行使されるのは
なかなか爽快なことでもあるなぁ、と思いながら観た。

                                                       10.11(月)  BS-2

2010年10月14日木曜日

セルフ・ドキュメンタリー                 映画監督・松江哲明ができるまで

松江哲明 著    河出書房新社

いままさに現役で走っているドキュメンタリー作家のセルフ・ドキュ
メント本。いかに映画に、ドキュメンタリーに関わることになったか。
そして、数ある自作の制作のきっかけや、その時の葛藤なんかが
つづられる。

松江哲明と聞いてもピンと来ないかもしれないが、映画好きならこ
の人が監督もしくは編集した作品を知っていると思う。

監督作(クレジットは「演出・構成」)は
『あんにょんキムチ』
『セキ☆ララ』
『童貞。をプロデュース』
『あんにょん由美香』
『ライブテープ』
他、AVなどが多数。TSUTAYAで借りられるのは『セキ☆ララ』と『あ
んにょん由美香』だけかな。『ライブテープ』は劇場に観に行った。

編集したものになると
『森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」』
『谷村美月 17歳、京都着』
などなど。これはどちらも買えば観られる。どちらも秀作。

本書では、これらの作品のそもそもの成り立ちから、映画の専門学
校時代から監督が築いてきた多岐にわたる人間関係まで、まさに「
セキ☆ララ」に書いてくれていて、おもしろい。
文章は、まあ及第点といったところ。ブログで書き慣れているからか、
読み易い文章ではある。

2010年10月11日月曜日

オリエント急行殺人事件

☆☆☆        シドニー・ルメット     1974年

なんだか洒脱な洋画が観たい気分だったので、「スティング」
みたいな感じを想像して本作を鑑賞。原作を読んだのは遠
い昔だが、あの犯人は忘れようがないので結末を知ってい
たわけだが、まあ雰囲気とディテイルを楽しもうというわけで。

スマートでインテリジェントなエルキュール・ポアロを想定して
観始めるも、ポアロ役は小太り・猫背で、下卑た笑い方をす
るちっちゃいオッサン(アルバート・フィニー)で、早速出鼻を
くじかれる。えーと、原作でもポアロってあんな人物描写だっ
たんだっけ。とても灰色の脳細胞を持つ天才には見えない
が…。
後半、乗客の取調べから解決にいたる会話劇の進め方は、
さすが「12人の怒れる男」の監督、と思わせてくれる手際の
よさ。雪の中を牽引されるオリエント急行とのカットバックが
おしゃれである。
かなり豪華なオールスターキャストの映画とのこと。残念な
がら私にはイングリッド・バーグマンとショーン・コネリーしか
分からないが。そんなことでも自分はやはり邦画好きなんだ
なと再認識する。だってこの時代の邦画の「オールスターキャ
スト」を謳う映画なら、たぶん8割以上顔と名前を一致させら
れると思う。

                                                          10.9(土)   BS hi

2010年10月10日日曜日

あんにょん由美香

☆☆☆★       松江哲明     2009年

私がブログを愛読する若きドキュメンタリー作家の2009年の
近作。TSUTAYAで借りることができる。2005年に急逝したAV
女優・林由美香の短い生涯を、1本のピンク映画を軸に、湿っ
ぽくなく、カラリとたどったドキュメンタリー。
そのピンク映画というのが、なぜか日韓合作で制作された「東
京の人妻 純子」というそれはもうムチャクチャな代物で、いく
つも場面が引用されるが、爆笑するしかないひどさである。

「由美香さんはなぜこの映画に出たのだろう」という問いを真
ん中に据え、関係者をたどりたどって韓国にまで飛んでしまう、
わりとフェイクドキュメンタリーの要素も含んでいるだろう本作。
だが、林由美香にゆかりの深かった人間たち(カンパニー松
尾、いまおかしんじ、平野勝之など)へのインタビューで、林由
美香という人物像をくっきりと浮かび上がらせていくのはドキュ
メンタリーならでは。
あまりこういう映画ってないので、新鮮である。

                                                       10.9(土)   DVD