2020年9月12日土曜日

読書㉑


『日はまた昇る』
ヘミングウェイ 著 高見浩 訳 新潮文庫

そういえば『老人と海』しか読んだことが無
いことにはたと気付き、急に読んでみた。ヘ
ミングウェイは、フィッツジェラルドほどで
はないにしろ村上春樹による言及も多い作家
である。当然ながら、私の抱くヘミングウェ
イのイメージは春樹の言葉から構成されてお
り、とりあえず武骨で、ブツ切りの短い文章
で、マッチョでタフでなければ生きていけな
い苛酷で酸鼻きわまる戦場の話ばかりなのか
と思っていた。砲撃の跡と無数の死体が横た
わる戦場の地平線に、それでも日はまた昇る
……的な。

実際はまるで違う。まず舞台は戦場でなく、
パリである。
主人公たちは毎晩カフェをはしごして酒を飲
んではダンスホールに繰り出して踊ってばか
りで、とっても頽廃的なのだった。みんなで
ブレットという美女(私のイメージは、最近
映画で観たからか若き日のキャメロン・ディ
アス)の尻を追い回して、友達と釣りに行っ
て、最終的にはスペインに闘牛を見に行く。
まあ、主人公が戦場で傷を負ってインポテン
ツであるという設定があるものの、思ったほ
どタフガイではなく、むしろみんなでKYな奴
だ(死語…)とイジめていたコーンという元
ボクサーに殴られて気絶したりしている。
まあでもイメージとは違ったが、小説として
はおもしろくて、一気に読んでしまった。

本書の扉に引用されたガートルート・スタイ
ンの言葉から「ロスト・ジェネレーション」
という括り方が生まれた。「自堕落な世代」
と訳されている。









『映画にまつわるxについて 2』
西川美和 著  実業之日本社文庫

おもに『永い言い訳』の時期のエッセイを収
録している。
このひとの文章には「毒」があって、そこが
おもしろいのだが、他人に対しても、自分に
対しても、ときどき意地悪な視点がのぞく。
思えばこのひとの撮る映画もそうである。
と同時に、うじうじしていることも多くて、
カメラマンを柳島克己から山崎裕に変えると
き、主役を本木雅弘に決めるとき、監督助手
を置くことを助監督に告げるとき、かなり悩
んでいて、でもその過程を笑える文章にする
のもうまい。そして本木雅弘からの「めんど
くさいメール」が公開されているのだが、そ
の超絶的な自己愛および自己評価の低さ、ネ
ガティブ思考は、これに返事を出して前に進
めていかねばならないプロデューサーの身に
なって読んでみると「めんどくささ」は凄ま
じいものがあって、関係ない読者から見ると
めちゃくちゃおもしろいメールなのであった。
もっくんって、こういうひとなんだー、と思
うこと請け合いである。




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