2020年12月26日土曜日

読書㉖

 
『M/世界の、憂鬱な先端』
吉岡忍 著    文春文庫

森達也の現代ビジネスの連載を読んでいて、
植松聖の精神鑑定に話が及んだ際、本書が
引き合いに出されていて、がぜん興味を惹
かれた。
書名の「M」とは第一義には宮崎勤の「M」。
吉岡は宮崎の三種類の精神鑑定書を徹底的
に読み込み、自らの取材で得た事実とも引
き合わせながらそのいい加減さ、矛盾、杜
撰さを白日のもとにさらしていく。凶悪事
件になればなる程、「判決は極刑しかない」
とまず結果が決められてしまう。つまり
「減刑はできない」、ということは「心神
耗弱という診断はできない」、なぜなら
「世論が許さないから」。
宮崎はマスターベーションところか勃起し
たこともなく、おそらく性欲のことも理解
していない。それでも事件は、性的ないた
ずら目的で4人の幼女を次々と毒牙にかけ
たロリコンの異常者による犯行、という結
論にまとめられるのである。









『「グレート・ギャツビー」を追え』
ジョン・グリシャム 著 村上春樹 訳 中央公論新社

プリンストン大学の図書館に厳重に保管され
ていたスコット・フィッツジェラルドの直筆
原稿が盗まれた。美術品専門のプロの窃盗団
による計画的な犯行だが、FBIの捜査もむな
しく、原稿は闇のマーケットに流れてどこか
へ消えてしまった…。

第一章を読むとクライム・サスペンスのよう
だが、原稿が消えてしまってからは、スラン
プに陥っている女性作家が主人公となり、保
険会社の有能なエージェントが彼女にある不
思議な依頼をすることになる。カミーノ島の
書店の店主をはじめとした、なかなか魅力的
な人物たちと、「本」というこの不思議なも
のとが織りなす多彩なストーリーが展開され
て、ぐいぐいと引っ張られるように読み進め
てしまった。フィッツジェラルドはもちろん
のこと、いろいろな作家の名前が出て来て楽
しいのだが、稀覯本の蒐集家である書店主の
口から『ブラッド・メリディアン』の初版本
の話が出たので、長い間わが本棚に温存して
あるepi文庫をそろそろ読んでみようかという
気にもなっている。




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