2021年5月29日土曜日

ヤクザと家族 The Family


☆☆☆★     藤井道人    2021年

映画の前半、映像は地方の工業都市のガランと
した雰囲気が出ていて良いが、ヤクザ映画とし
ては甘い印象。
いきがってたチンピラ(綾野剛)が本物のヤク
ザにちょっかいかけて半殺しにされ、臓器売買
のために解体される寸前に助けられて組員にな
り、持ち前の度胸で頭角を現していく、という
展開は、言ってみればありきたりである。
対立している組との交渉が決裂した翌日に組長
(舘ひろし)がのんびり釣りに行ってる場合で
はない。このまま襲撃されるだけではあまりに
も普通なので、運転手の若い衆が裏切るのかと
思ったが、ただ襲撃されただけだった。意外性
も何もない。

そして後半。
なるほど、こっちを映画にしたかったのね、と
いうのはよく分かったが、なんだか少年院で見
せる教則映画のよう…。あまりおもしろくはな
かった。
尾野真千子はよかった。「大学生にしちゃ老け
てるな」は笑っていいところなんだろうか。あ
のセリフ要るかね。

                                           5.9(日) Netflix




2021年5月26日水曜日

ムトゥ 踊るマハラジャ

 
☆☆☆★★ K・S・ラヴィクマール 1998年

2018年「4K & 5.1chデジタルリマスター版」
を、自宅のテレビ(HD、ステレオ)で視聴。

「スーパー召使い」ともいうべき主役のムトゥ
を演じるのは、インド映画界きっての大スター
"ラジニカーント"さんだというのだが、パッと
見はただのアクの強いおっさんに見えなくはな
い。
効果音ばかりがハデなアクションあり、顔芸あ
り、歌あり踊りありの絢爛豪華さは、「インド
映画」のイメージ通りですこぶる楽しいが、瞠
目するのはそのカットの多さ。冒頭の5分を撮
るのに、ゆうに1週間はかかったろうと思われ
るほど、莫大な数のダンサーを踊らせ、馬車を
疾走させ、それをあらゆるアングルから撮って
惜しみなくカットを重ねる。これは気前のいい
プロデューサーがいないと撮れない映画である。
ボリウッド、恐るべし。

                                  5.5(水) BSプレミアム




2021年5月24日月曜日

キッド

 
☆☆☆★  チャールズ・チャップリン  1921年

捨て子をひろってしまったことから巻き
起こるチャップリン流の人情噺。無理や
り押し付けられる格好でしぶしぶ育てる
うちに、本当の親子になっていくさまは
ほほえましい。もちろんサイレントだが、
伝わるものは伝わるのである。
ラストには若干の「えーと、それで良い
んだっけ?」感はあるものの、良い映画
である。

                             5.3(月) BSプレミアム




2021年5月21日金曜日

読書⑤

 
『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』
貴志謙介 著   NHK出版

戦後ゼロ年、すなわち1945年8月15日から
の1年間に撮影された貴重なアーカイブ映像
に、山田孝之が入り込んで焼け跡をさまよっ
たりすし詰めの列車に乗り込んだりすると
いう演出が話題になったNHKスペシャル。
私も観ました。その出版化ということだが、
内容の濃さはテレビ番組と1冊の本とでは
桁違いで、読み進めるうちに、本編はこっ
ちではないかという確信が芽生えてくる。

敗戦直後から東京にポッカリと口を開けた
"ブラックホール"、それはヤミ市や隠匿物
資や検閲、さまざまな事象の暗喩なわけだ
が、その文字通りの「闇」のあまりの深さ
には愕然とする。とりわけ8月15日から、
マッカーサーがやって来るわずか2週間の
間に、日本軍が徴収し貯め込んだ莫大な食
糧や貴金属や軍需物資を死にもの狂いでか
き集め、ネコババして隠匿したエリートた
ちのあさましさには、言葉を失うばかりで
ある。この本の特徴は、徹底的にデータや
数字に基づくことはもちろん、当時の出版
物や新聞からの短い引用を非常に多く取り
込むことで、時代の空気を感じながら読み
進めることができる点にある。

東京に住む人間としては、恥ずかしながら
知らないことばかりで、新美術館の隣に米
軍基地があって、そこからアメリカの要人
がパスポート無しで入国できる(今でも)
とか、皇居前広場が米軍兵士と街娼との
巨大な公然の「出会いの場」だったとか、
信じられないようなことがたくさん出て来
る。裏・東京ガイドとしても読むことがで
きそうだ。










『黒沢清、21世紀の映画を語る』
黒沢清 著    boid

黒沢さんがさまざまな場でおこなった講演
やティーチ・インをまとめて収録したもの。
ちょうど大島渚をまとめて観ていたので、
「大島渚講座」と題した2009年のPFFでの
講演が読めて、タイミング良し。『日本春
歌考』と『絞死刑』の上映前におこなった
ティーチ・インで、同じアフレコ映画なの
に音に関するアプローチがまるで異なって
いる、という興味深い指摘もあり、おもし
ろかった。
シネマロサでの講義では「1カットの持続」
ということについてずっと考え続けている
と語っていて、映画を撮るにあたっても最
大のテーマのひとつと言っている。1カット
の持続する時間が気になるということは、
裏を返せばカットを「割る」ということに
ついても意識的ということで、飛び降り自
殺をワンカットで撮ることを私の知る限り
でも2回やっている監督らしいとも言える。





2021年5月19日水曜日

私をくいとめて

 
☆☆☆★   大九明子   2020年

能年ちゃんを主演に、綿矢りさの小説を映
画化。
いつもAという自分の分身に話しかけてい
る若干不思議な女の子の不器用な恋愛を描
く。相手役は林遣都。自然と、Aと会話を
しながら、いわば自問自答のようなそうで
ないような芝居が多くなるわけだが、表情
の演技もなかなかうまい。ちなみにAの声
は中村倫也が担当。職場の先輩として能年
ちゃんに気さくに接してくれる臼田あさ美
がすばらしい。これまででベストの演技だ
と思う。

そして何といっても、結婚してローマに住
む親友という役柄で橋本愛が出てくる。と
いうことは、そういうことです。能年ちゃ
んと橋本愛がひとつのフレームに収まって
いる画をふたたび観ることができて、『あ
まちゃん』こそがこれまで人類が作った映
像作品のなかで最もおもしろいと思ってい
る私も、感慨ひとしおです。
ローマにロケに行ったんだ、と思っていた
ら、監督のインタビューによると行かずに
撮影したとのこと。ふーむ。たしかにロー
マの休日の階段は画が狭すぎると思ったが、
他はそんなに不自然とは思わなかった。

            5.2(日) Amazonプライムビデオ




2021年5月17日月曜日

愛と希望の街

 
☆☆☆     大島渚   1959年

大島のデビュー作である。
もともとは『鳩を売る少年』というタイトル
だったのを勝手に改題されて公開され、大島
が激怒したという。
物語は鳩を売る貧しい少年と、同情心でそれ
を買った金持ちの家の娘との交流を描く。も
ちろんそこには貧富の差というだけではない
「冷厳なる壁」が存在し、ふたりがそれを乗
り越えることは決してできない。60分余りの
中編ながら、ずしんとくる重さの映画である。

これにて、大島渚祭りは終わり。
全部で9本(1本はアマプラで観てしまったが)
を観て思ったことは、本当に幅広く、難解な
のも分かりやすいのも、政治的なのも俗物的
なのも、真っすぐなのもひねたのも、大物俳
優が主役でも素人に命じて芝居をさせても、
とにかく「なんでも撮れる」ひとだったのだ
な、ということだ。私はそういう映画監督の
ほうが信用できるし好きである。そして、
『戦場のメリークリスマス』って実はあんま
り面白くなかったよな、ということも思う。
やはり脚本だろうか。
大島のキャリアを代表させる3作を選ぶなら、
私は『青春残酷物語』『絞死刑』『儀式』
と答えることにする。あ、はやいとこ『愛の
コリーダ』観とかないと…。

                            4.23(金) シネマヴェーラ




2021年5月14日金曜日

青春残酷物語

 
☆☆☆★★   大島渚   1960年

どことなく日活の石原慎太郎原作の映画を思
わせるような、無軌道で刹那的な若者たちを
描いた大島の長編第2作。ヒリヒリするよう
な若者の「生き急ぎ感」が全体を覆っていて、
画のインパクトも強い。興行としては大ヒッ
ト、のちにゴダールが『映画史』で採りあげ
たことも有名である。

桑野みゆきは男にホテルに連れ込まれそうに
なっている所を川津祐介に助けられるが、翌
日、誘われて付いて行った木場で遊んでいる
ときにレイプされる。
この時の、泳げない桑野みゆきを海に突き落
としておいて、同意するまで木材に摑まらせ
ないように執拗に蹴り続ける川津祐介が、石
原慎太郎の小説の人物のようだと思ったわけ
だが…。しかし結局ふたりは同棲することに
なる。このへんの60年代的な流れには付い
て行けません…。それにしてもロケーション
がどこも良い。

この種の映画ではあまり見ない久我美子も出
演。過去のあやまちを悔い続けている桑野の
姉を演じる。またこの映画の渡辺文雄は絶品
である。久我美子の元恋人の町医者。この人
物の存在が映画を引き締めていると思う。

                              4.18(日) シネマヴェーラ