2021年5月21日金曜日

読書⑤

 
『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』
貴志謙介 著   NHK出版

戦後ゼロ年、すなわち1945年8月15日から
の1年間に撮影された貴重なアーカイブ映像
に、山田孝之が入り込んで焼け跡をさまよっ
たりすし詰めの列車に乗り込んだりすると
いう演出が話題になったNHKスペシャル。
私も観ました。その出版化ということだが、
内容の濃さはテレビ番組と1冊の本とでは
桁違いで、読み進めるうちに、本編はこっ
ちではないかという確信が芽生えてくる。

敗戦直後から東京にポッカリと口を開けた
"ブラックホール"、それはヤミ市や隠匿物
資や検閲、さまざまな事象の暗喩なわけだ
が、その文字通りの「闇」のあまりの深さ
には愕然とする。とりわけ8月15日から、
マッカーサーがやって来るわずか2週間の
間に、日本軍が徴収し貯め込んだ莫大な食
糧や貴金属や軍需物資を死にもの狂いでか
き集め、ネコババして隠匿したエリートた
ちのあさましさには、言葉を失うばかりで
ある。この本の特徴は、徹底的にデータや
数字に基づくことはもちろん、当時の出版
物や新聞からの短い引用を非常に多く取り
込むことで、時代の空気を感じながら読み
進めることができる点にある。

東京に住む人間としては、恥ずかしながら
知らないことばかりで、新美術館の隣に米
軍基地があって、そこからアメリカの要人
がパスポート無しで入国できる(今でも)
とか、皇居前広場が米軍兵士と街娼との
巨大な公然の「出会いの場」だったとか、
信じられないようなことがたくさん出て来
る。裏・東京ガイドとしても読むことがで
きそうだ。










『黒沢清、21世紀の映画を語る』
黒沢清 著    boid

黒沢さんがさまざまな場でおこなった講演
やティーチ・インをまとめて収録したもの。
ちょうど大島渚をまとめて観ていたので、
「大島渚講座」と題した2009年のPFFでの
講演が読めて、タイミング良し。『日本春
歌考』と『絞死刑』の上映前におこなった
ティーチ・インで、同じアフレコ映画なの
に音に関するアプローチがまるで異なって
いる、という興味深い指摘もあり、おもし
ろかった。
シネマロサでの講義では「1カットの持続」
ということについてずっと考え続けている
と語っていて、映画を撮るにあたっても最
大のテーマのひとつと言っている。1カット
の持続する時間が気になるということは、
裏を返せばカットを「割る」ということに
ついても意識的ということで、飛び降り自
殺をワンカットで撮ることを私の知る限り
でも2回やっている監督らしいとも言える。





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