2021年5月5日水曜日

読書④

 
『神戸・続神戸』
西東三鬼 著    新潮文庫

「京大俳句事件」で検挙されたこともある
俳人の著者が、戦時下の神戸を舞台に書い
た十篇の短篇を集めた「神戸」と、五篇か
らなる「続神戸」を併せて収める。
世界各国から流れ着いた奇人たちと、たく
ましい商売女たちが住む奇妙なホテルが出
てきて、三鬼自身と思しき主人公もそこに
住んでいる。空襲も食糧難もあった神戸だ
が、活写される奇妙な人物たちの言動には
そこはかとない「おかしみ」が含まれてい
て、不思議な明るさがともなっている。










『スクリーンが待っている』
西川美和 著    小学館

『すばらしき世界』制作中の時期に小説誌
「STORY BOX」に連載していたエッセイ。
佐木隆三の『身分帳』を読んで映画化を決
意して間もない時期から始まっており、映
画公開直前の今年1月まで、足かけ3年にお
よぶ息の長い制作過程である。撮影時のエ
ピソードもカラフルでおもしろいが、映画
制作においてカメラをまわしての撮影期間
というのは全体のうちの僅かにすぎない。
脚本も書く西川さんの場合は特に、リサー
チと執筆があり、書きあがったらロケ場所
の選定やら俳優のキャスティング、オーディ
ションがあり、助監督が合流してのこまご
ました詰めの準備を経て、ようやくクラン
クインである。クランクアップするとこれ
また長期間のポストプロダクションがある。

人間の中の、できれば直視せずに済ませた
いような暗部をえぐる作品を作ってきた西
川さんの筆は、時に自分自身にも向けられ
る。若いプロデューサーの意向で、デビュ
ー作からの付き合いの制作部の長をクビに
しなければならなかった顛末など、別に書
かないで済ませることもできただろうが、
書いておきたかったのだろう。痛みを抱え
ながらの文章が心に残る。もちろんいつも
の辛口のユーモアも随所で炸裂していて、
思わず笑う。


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