2021年7月22日木曜日

読書⑧


「文藝春秋」2019年3月号より、芥川賞
受賞作を読む。
 

「ニムロッド」
上田岳弘 著

ビットコイン、バベルの塔、駄目な飛行機
の試作品たち、左目からだけ流れる涙…。
これらの要素をまとめて綺麗に織り上げる
手腕はたいしたもので、たしかに力量的に
は芥川賞の水準を超えている印象。でも好
き嫌いだけを言うと、私はこういう小説は
嫌いである。管理の行き届いたサーバール
ームのように適切な空調が効いた文体とい
うか、どこまでいっても平熱で、どこにも
引っ掛かりがない。


「1R1分34秒」
町屋良平 著

ボクシングを題材にしたこの小説を読んで、
昔、芥川賞受賞作をまとめて読んでいたと
き、剣道を題材にした高橋三千綱『九月の
空』という青春小説があったのを思い出し
た。なぜこの小説を覚えているかというと、
アクの強い小説の多い受賞作の中で、もの
すごく普通で特色がなく、読み終わって拍
子抜けしたことを覚えている。

勝ちあぐねている不振のボクサーを主人公
に、練習中、減量時、試合中のボクサーの
体の動き、思考の流れを愚直なまでに描写
を重ねていく。
文章はお世辞にもうまいとは言えず、稚拙
な表現も多いように私には思えるが、この
「要領の悪さ」こそが「勝てないボクサー」
である主人公と不思議とリンクしてしまっ
て、だんだんと好感を覚えてしまう。
ウメキチというトレーナーと出会ってから
いちだんと加速する物語には引き込まれる
ものを感じた。


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