2020年5月27日水曜日

読書⑬


『明暗』
夏目漱石 著    新潮文庫

本の分厚さと、「未完」であるという事実から
これまで挑戦しあぐねていた、漱石最大の長篇
にもおかげさまで挑むことができて、わたしは
とても幸福でした。

津田。お延。秀子。小林。吉川夫人。そして清
子。この小説の主要な登場人物は半分以上が女
である。漱石の小説でこれほど女を「描き分け
た」ものはないだろう。しかも津田の視点で語
られていた物語が、一転して妻のお延の視点に
変わる部分すらあるのである。
それぞれ人格が重層的に書き込まれた津田、お
延、秀子が、それぞれ一対一で、また三人で一
堂に会して会話の火花を散らす。『草枕』なん
かと比べると別人が書いたかのような、装飾の
そぎ落とされた、「実用的」といいたいような
文章で、緻密な心理描写が続けられる。

しかし『斜陽』の解説も、漱石の主要な作品の
解説も、ことごとく柄谷行人とはこれいかに。
でも「小林」という人物の異質性(他者性)に
紙数を割いた解説も、けっこう読み応えあるか
ら困りますな。








『メメント』
森達也 著    実業之日本社文庫

「月刊J-novel」に連載した長めのエッセイ
をまとめた本。「メメント・モリ」だと藤原
新也とカブるので「メメント」だけにしたと。
飼っている(飼っていた)ペットの話が意外
に多い。子どもの頃から一貫して、森さんが
そんなに動物好きだったとは知らなかった。
森さんの文章は論理的なのに情緒的なのであ
る。そこが好きなんだけど。

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