2020年5月21日木曜日

読書⑫


『遠い山なみの光』
カズオ・イシグロ 著 小野寺健 訳 ハヤカワepi文庫

デビュー作にしてこの筆力はさすが。
しかし、いまは後の『わたしを離さないで』
などをすでに知っているので言えることで
もあるが、すこし技巧に走るところがある
ようにも感じた。稲佐山のロープウェイの
場面とか、夜に家を飛び出した万里子を追
うシーンなど。作為が見える、とでもいう
か。

主人公の「悦子」のイギリスの家に、大学
生の娘の「ニキ」が泊りにくる場面から小
説は始まる。これが"記憶"の小説であるこ
とはのちのイシグロ作品とも一貫した姿勢
である。小説のほとんどは、悦子が長崎で
最初の子どもを妊娠していたときの回想に
費やされる。「書いてあること」と「書か
れていないこと」、そして「示唆されてい
ること」。この3者の比率と、「示唆され
ていること」を扱う手つきに非凡なものを
感じる。

敗戦を経た長崎で昔の教え子に再会する場
面は『浮世の画家』に似ているように思っ
た。









『出会い』
ミラン・クンデラ 著 西永良成 訳 河出書房新社

 ラブレー、ドストエフスキー、セリーヌ、
 カフカ、ガルシア=マルケス、フェリーニ…
 クンデラが愛する小説、絵画、音楽、映画
 を論じた、決定版の評論集!

と帯にある。
「出会い」をキーワードに「偏愛」を語って
いるわけなのだが、まあ晦渋な文章というの
か、流し読みしただけではさっぱり頭に入っ
て来ないので、自然同じ箇所を二度、三度と
読むことになる。セリーヌを非常に高く評価
しているようだ。いちど読んでみるか…。
ヤナーチェクへの惜しみない賛辞も捧げられ
ており、この作曲家がかなり遅咲きの、特異
な経歴をたどったことを初めて知った。





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