2022年3月24日木曜日

読書②

 
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
J.D.サリンジャー 著 村上春樹 訳 白水社

発売されてすぐ読んで、以来読み返していない。
奥付を見ると2003年4月とあるから、えーと、
19年ぶり…。ちーん。よもやそんな月日が経っ
ているとは思いもせず、茫然とするしかない。

当時はまだ春樹も本格的に翻訳をやり始めたと
ころで、今ほどその訳業に定評はなく、”あの”
『ライ麦畑』を訳したことも、この訳文自体も、
あまり好意的には受け取られていないような空
気があったように記憶している。なにしろ熱狂
的なファンがたくさん居たのだ。
私は別にサリンジャーのことはロクに知りもせ
ず、春樹の新しい出版物として読んだ。翻訳な
のにいつもの春樹の文章と同じだな、と思った
が、それがサリンジャーの文章を無理やり自分
流にアレンジしたのか、もともとアメリカ文学
の影響を多分に受けているため、春樹が確立し
た文体がサリンジャーの文章と呼応しやすかっ
たのか、そういう区別もついていなかったよう
に思う。

  ドアを閉め、居間の方に戻りかけたところ
 で、先生が僕に向かって大声で何か怒鳴った。
 はっきりとは聞き取れなかったけど、たぶん
 間違いなく「グッド・ラック!」と叫んだん
 だと思う。そうじゃなければいいんだけどと
 思う。真剣にそう願うよ。相手が誰であれ
 「グッド・ラック!」なんて僕は叫んだりは
 しない。だってさ、そんなこと言われたら気
 が滅入っちまうじゃないか。

いま読んでも、というかたぶん19年前よりもす
んなり読むことができた。ホールデン・コール
フィールドという、この言い訳と文句の多い、
いくぶん神経症的な傾向のある、でも兄と妹を
心から愛していて、傷つきやすく優しい青年の
像を自分の中で19年ぶりに更新することができ
てよかったと思う。










完全版 普通の人』
安西水丸 作   

"おもしろ普通常識マンガ"
というなんだかよく分からない惹句が帯にある。
まあ「どこにでも居そうなひと」が、朝目覚め
てから1日を終えるまでを、独特のテンポで描
いたもの、とでもいえばいいだろうか。なにげ
ないセリフが、「どうやってこの言葉を持って
来たのだろう」と思うようなリアリティとおか
しさに溢れている。

村上春樹も、巻末の解説の中で、あるOLのか
なりぶっ飛んだ思考の流れと独り言を挙げて、
「こういうすさまじいダイアローグは、書こう
と思って書けるものではない」
と書いている。
登場人物の中では私はいつも「クケーッ」と
言いながら周りのものすべてに常軌を逸した
怒りをぶつけているオジサンがけっこう好き
である。








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