竹内政明 著 文春新書
著者は、数ある新聞コラムの中でも随一といわれる讀賣新聞の
「編集手帳」担当を長くつとめた人物とのこと。いわばコラムの名
人だが、その著者が古今東西の「粋な」文章を引用し、紹介して
いくという趣向。「粋な」文章とは、なにも文学に限ったものではな
く、サラリーマン川柳から電報まで、多岐にわたる。
一読して、なんだか高島俊男さんの「お言葉ですが…」を水で薄
めたような本だな、という印象。たしかにおもしろい文章、ハッとさ
せられる表現がたくさんあって楽しいが、高島さんを読んでしまう
とどうも、薄味に感じる。
とは言っても、この趣向が嫌いなわけがない私であるので、一気
に読了してしまった。
中でも特に良かったものをひとつ。北杜夫が高校時代、苦手だっ
た物理の試験の答案に書いたという詩を、引用の引用になってし
まうけれど、書き写してみる。
恋人よ
この世に物理学とかいふものがあることは
海のやうにも空のやうにも悲しいことだ
恋人よ
僕が物理で満点をとる日こそ
世界の滅亡の日だと思つてくれ
僕等には
クーロンの法則だけがあれば澤山だ
二人の愛は
距離の二乗に反比例する
恋人よ
僕等はぴつたりと
抱き合はう!
<帝国芸術院賞授賞作品>
――斎藤宗吉
これが北杜夫の作だというのがまた面白さを倍増させていると思う。
才能というのは、もちろん環境に左右される部分もあるにせよ、親
から直接受け継ぐ天才というのも、厳然としてあるんだなぁ、としみ
じみ感じ入る。小沢健二や宇多田ヒカルを見ててもそう思いますよ。
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