2021年8月10日火曜日

読書⑨

 
『往復書簡 限界から始まる』
上野千鶴子 鈴木涼美 著   幻冬舎

またまた「100分 de 名著」の話で恐縮だが
(この番組は私の読書生活に多大な影響を及
ぼしているといっていい)、こないだのボー
ヴォワール『老い』を上野千鶴子が解説した
月はまことにおもしろかった。長年、大学の
教官をしていただけあって喋り慣れているし、
伊集院光の、時に暴投ぎみの「たとえ話」も
きちんと受け止めて返答する。誰でも目を逸
らしたくなる「老い」という問題を、自らに
も引きつけた軽妙な語り口の中に、いろいろ
なもの(家父長制とか、家父長制「的なもの」
とか)と闘いながら道を切り拓いてきた「落
ち着き」と「知性」とがあって、すっかり惹
きこまれてしまった。

そんなわけで出版されたばかりの本書を読む
ことに。するとこれがまたおもしろい。察す
るに鈴木涼美さんのほうは「相手は上野千鶴
子だ。下手なことは書けない」と少々気負っ
ているようにも感じられた出だしだったが、
3往復ほどして、児童文学研究者だった鈴木
さんの母親(灰島かり)との葛藤に話が及ぶ
と明らかに空気が変わっていった。
上野も、39も年下の、まだ自分の負った(も
ちろん自らの責任において、ということだが)
「元AV女優」というスティグマを武器にして
歩き出したばかりの社会学者が相手というこ
ともあり、これまでの「女性学」「フェミニ
ズム」の闘いの歴史をところどころでひもと
くような箇所もあり、正直言ってフェミニズ
ムとかまったく関心の外だった私は、蒙を啓
かれる思いがした。











『子どもは判ってくれない』
内田樹 著    文春文庫

いつもの「ブログ本」ながら、試しにかなり
前に出たものを読んでみた。本書は2003年に
単行本が出ている。2003年といえば9.11もま
だ記憶に新しく、時事的な話題といえばイラ
ク戦争、有事法制、ネオコンの台頭など。で
も収められている記事のほとんどは、村上龍
のエッセイの感想とか、教育の問題とか、読
書についてとか、時事とはあまり関わりのな
い話題である。
何か今の内田樹と変化があるかと思って敢え
て18年前の本を読んでみたが、うーん、あま
り変わってないですね。文体も「まったく変
わっていない」と言っていいだろう。
中に「セックスワーカー」についての長めの
文章があって、ちょうど宮台真司らとともに
上野千鶴子の名も出て来る。まあ、批判的な
文脈の中で、ということだが。
あとわたしたちが本を読むのではなく、「本
にえらばれて」、「本が私を読んでいる」と
感じることが時にある、というようなことを
書いていて、これはなかなかおもしろい文章
であった。


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