2021年9月18日土曜日

読書⑫

 
『輝ける闇』
開高健 著    新潮文庫

去年間違って『夏の闇』を先に読んでしまっ
たが、ようやくこちらを読む。
ベトナムの戦場でひたすら待機する米軍とと
もにじっとりと何かを待ち続ける場面から始
まる物語は、意外にも何も起こらないままサ
イゴンに舞台を移す。新聞記者である主人公
は、サイゴンで酒と煙草と商売女の"素蛾"と
戯れながら、日々を過ごす。いつ終わるとも
知れないこの取材とも待機ともつかない怠惰
な日常は、ある日戦場に戻る決意を主人公が
することで終わる。再び従軍記者として訪れ
た部隊は、ほどなくしてヴェトコンの陣地へ
の示威行動という無謀で不毛な作戦に駆り出
されることになる…。
ベトナムの暑さの描写がすばらしい。そして
それと対照的な早朝の処刑の場面が心に残る。

両方読んだ感想だが、小説としては『夏の闇』
の方が好きかもしれない。ソファに自分の形
がくぼみができるほどの怠惰な日常の描写が
今から思うとなんだか可笑しい。泊まりがけ
で魚を釣りに行くのを除けば遠出らしいこと
もせず、主人公はある日、急に目が覚めたよ
うにベトナムの戦場に戻る決意をする。小説
としての結構は似ているのである。











『カモフラージュ』
松井玲奈 著    集英社

ラジオで耳にしたのがきっかけだったのか詳
しくは忘れたが、松井玲奈のソロシングルに
入っている「からす座」という曲が気に入っ
て、一時期よく聴いていた。チャラン・ポ・
ランタンが伴奏とコーラスを付けていて、松
井の書いた歌詞もなかなかおもしろい。この
コは鉄道好きでタモリ俱楽部に出たり、こう
やって小説を書いたりするのでけっこう気に
なっている。

この本はこないだ文庫になったばかりだが、
単行本で読んだので1つ短篇が少ないようだ。
社内不倫をしている女の子の話から始まった
ので、なるほどこういう感じか、と思ったら、
6つの短篇どれも全然違う話で、ちゃんと書
き分けられていた。あれだけいろんなヴォイ
スを書き分けられたら、長篇を書く日も近い
という気がする。


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