2021年9月3日金曜日

読書⑪

 
『充たされざる者』
カズオ・イシグロ 著  古賀林幸 訳

この夏、まとまった時間がありそうだったの
で、何か長いものを読もうと思い、本棚を眺
めていると(この時間が人生の至福である)、
とびきり分厚い文庫本が呼んでいるような気
がした。940ページある持つのも重い大長篇
を、だいたい1日100頁づつ、10日間かけて
読了。

世界的ピアニストの「ライダー氏」を語り手
とした1人称小説で、中欧の架空の街で公演
を依頼されたライダーがその街にやって来る
場面から始まり、次の目的地ヘルシンキに旅
立つまでの数日間を描いている。カフカ『城』
を意識しているという物語は幻想的というか
妄想的で、時間と空間はあちこちでねじ曲が
る。だいたい最初のエレベーターの中の会話
からして長すぎる。登場人物たちは慇懃な態
度を保ちながらも、いつも勝手な頼み事をラ
イダーにしてきて、ライダーは懸命に奔走す
るがそれは果たされないままに積み残されて
いき、にも関わらず次々と現れる煩雑なこと
に時間を空費せざるを得ない。すべてが徒労
であることはいわば「小説内ルール」として
読者にはおのずと了解されるようになってお
り、その「先の見えた物語」をそれでも940
ページも引っ張る"腕力"には敬意を表したい。
特に会話のうまさには脱帽である。

でも"不条理"ってこういうことなんでしたっ
け? まあ『城』も『異邦人』も読んだのは
ずいぶん前で、ちゃんと覚えているわけでは
ないが、なんだか似ても似つかないもの、と
いう感じがする。まあそれはそれでいいのか
もしれないが。











『ふわふわ』
村上春樹・文 安西水丸・絵  講談社

世田谷文学館の安西水丸展に行ってきた。
水平線ひとつでなんでもない机上の静物が
途端にオシャレな絵になってしまうのはさ
すがとしか言いようがない。「都会的」と
いう言葉が浮かぶ。
この絵本では猫の"質感"を出すのにいろい
ろ工夫を重ねたという。あまり苦心の跡は
感じられないが…。それが都会的というこ
とだろう。


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